ベッドサイドの話題から、虫垂炎の典型例を学んだ
患者さんに聞いた話。ご自分の20代の息子さんのことでした。

その息子さんが強烈な腹痛と吐き気に襲われ、救急診療科へ。
担当の医師は消化器科のドクターだった。そして、このドクターは「食中毒」と診断した。抗生物質等を処方し、「これでよくなるだろうから、明日は会社に出でても大丈夫!」と断じた。

「食中毒」と言われても、家族と同じものを食べたのに「なぜ自分だけが….?」

腹痛や吐き気は治まるどころか一層悪化。
あげく、墨汁のような便が出だした。
翌日の早朝に、前医の病院に電話で状況を説明したところ、「すぐに来るように」指示される。それでも診察が始まるまで、待合室で辛い時間を待たされる有様だった。

診察したドクターは前医とは別の消化器科の先生で、カルテを見て「食中毒か…」。
墨汁のような便は「悪いものが出るのだから大丈夫、白血球数も下がってきている」と言って問題視されなかった。

帰宅してもドンドン具合が悪くなっていき、その息子さんは「ぼくは死ぬんじゃないか!」と言い出す始末。お腹は膨満してきて、夜になって堪らずに再び救急診療科へ。

その夜の担当医は外科医だった。
診察するなり「これは大変だ!」、盲腸が化膿して破裂し、腹腔中に膿が….。
すぐに手術しなければならないが、病院に今、麻酔医がいないので、近くの手術可能な病院に搬送するからと、急遽その外科医も同乗して手術することになった。
幸い、快方に向かっているとは言え、命に係わる大失態だった。

腹部の触診もなかったそうだから、もしもそれが事実なら食中毒と予断して診察のプロトコルを省いた大失態である。それでも触診すれば虫垂炎が確実に確定できるわけでもないだろうが、特に外科医は際どいところでの診断が求められている。

虫垂炎の判断は、マックバーネー点の身体反応から推定するという古典的な手法がある。
しかし、症候は必ずしも典型的にパターン化されて現れるとは限らない。

基本的には右下腹部の「圧痛」と「反跳痛」を確認するようであるが、他の疾患が否定されていれば先ずは「虫垂炎」とみなすのが原則のようである。

もしも画像で確認できなくても、開腹して目視することで初めて「虫垂炎」と確定されることもあるらしい。
そうなれば、疑わしきは開腹してからの確定となるのだろう。

「診断は正確に!」と言っても容易な話ではないということだが、今回のケースで「食中毒」の確定は、いったい何を根拠にしたのだろう。
腹痛、嘔吐の訴えに、どう対応したのだろう。
虫垂炎は頻度のとても高い腹痛にはじまる。触診もしなかったなんて想像できない。

もしも、我々がそうした患者さんに遭遇したら、どう対応すべきなのだろう。

典型的なパターンは、食欲低下にはじまり、心窩部の痛みや臍周囲が間欠的に痛むようになり、悪心や嘔吐が起こる。
嘔吐が腹痛に先行することはまずないとされ、痛みが右下腹部に移動してくるようになると微熱がでるようになる。
もしも穿孔があったりすると高熱を伴ったりする。


これが虫垂炎の典型的な徴候とされているようだが、必ずしもパターン通りではなく、腸炎との鑑別診断に悩まされるのだそうだ。
それだけ誤診も多いのだろうが、典型的パターンであれば誤診はまずないとされている。
今回の話題の症例は、典型例を触診もせずに誤診したのだろう。悲惨なことだった。

だから、①典型例か否か、②右下腹部の圧痛と反跳痛の身体所見があるか、典型パターンでは、これが決め手となるのだろう。

仮に心窩部の痛みや臍周囲の訴えであっても、右下腹部の圧痛を確認したら躊躇うなかれだ。
病的サインを確認したら、医療機関との連携を視野に入れておかなければならない。

幸いにも、私の虫垂は、いまだ健在である。
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by m_chiro | 2013-09-25 17:17 | 症例 | Trackback | Comments(4)
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Commented by sansetu at 2013-09-25 20:19
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11018496159.html
先生、この↑リンクは読まれましたか。
診断がかなり難しいことが分かります。
なので記事のドクターが初期段階で「虫垂炎を見抜けなかったこと自体」には大きな問題はないと思えます。問題は診断の難しい虫垂炎除外を、そうであるにも関わらず早期に除外決定し、経過の観察や、経過進展可能性に伴う患者宅との連絡の確保、追加診断の用意などをすべて放棄した点にあると思います。
人間は神ではないのですから、大切なことは、先生の仰るように危機管理のプロトコルだと思います。
Commented by 針立酔候 at 2013-09-25 20:48 x
僕もブログ記事の内容に似た話しを数名の患者さんから聞いた事があり、内科医や外科医のドクターに虫垂炎の事例の話しを聞いた事があります。昔は虫垂炎を疑い開腹した時に虫垂炎ではなかった場合…なんと開腹した執刀医が手で叩いて人工的に腫れさせたのち、虫垂炎という事にして処理していた時代があったそうです。(これは数人の違う科のドクターからも聞いた事実です。)
いまだに確固たる確定診断はないそうです。

鍼灸では蘭尾という奇穴の反応を診て判断します。
ご参考まで…
Commented by m_chiro at 2013-09-25 21:24
sansetu先生、とても分かりやすい記事を紹介していただき有難うございました。
「診断は正確に!」と簡単に口にできる人は、羨ましいと思うほかありません。
そう思います。
Commented by m_chiro at 2013-09-25 21:42
針立酔候せんせい、「蘭尾という奇穴の反応」でみるのですね。
蘭尾の部位を調べてみました。胃経ですね。
今度、気をつけて腹痛の人の反応を見てみることにします。<(_ _)>

開腹して虫垂炎でなかったら、腫れるほど叩いたんだ....、本末転倒の時代もあったんですね。
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