「痛み学」NOTE 61. 炎症徴候が慢性的に続く訳?②
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。


61. 炎症徴候が慢性的に続く訳?
② 長引く炎症徴候


腫脹をもたらす元凶はプロスタグランジンによる、と生理学で学んだ。
この患者さんは消炎鎮痛薬(NSAID’s)を服用し続けてきた。プロスタグランジンの生成を抑えるための薬物である。
それなのに腫脹はおさまることなく、2年間も続いたことになる。

そもそもケガや火傷など、肉体的危機を回避するための警告として発痛物質(カリウムイオン、セロトニン、アセチルコリンなど)が作動する。
警告は感覚器から脳へ伝えられるわけだが、警報の大小あるいは強弱で言えば大は小を兼ねる。
そのための増幅物質としてプロスタグランジンが重要な働きをしているのだろう。
だからプロスタグランジンは、常に体内で生成され、緊急時には迅速対応に備えている。
「眠らない物質」とも言えるだろうか。

プロスタグランジン生成の素材は細胞膜であるから、材料には事欠かない。
その上、脂質の摂取も日常的である。
だからと言って、痛みや腫脹の炎症徴候をプロスタグランジンに責任を押し付けるわけにはいかない。
なぜなら、プロスタグランジンは反復的な筋や腱の運動でも生成されているからで、そのことが即ち発痛を起こすとは限らないからである。

また、NSAID’sを事前投与していることで、プロスタグランジンの生成を抑えることができるという研究もある。

2年間も続いた患者さんの炎症徴候が、なぜ簡単な手法で止まったのだろう。
その疑問を読み解くと、痛みや炎症の根本的な問題に合点がいく。
さて、この患者さん「思い当たる損傷の経験はない」と言っていたように、2年間も損傷が続いているわけではないのである。
だから続いている腫脹は、プロスタグランジンに主たる責任がないことは明らかである。その証拠にNSAID’sを服用しても効果がなかった。

したがって、問題は緊急性のAδ線維の受容器興奮にあるのではなく、C線維のポリモーダル受容器にあることがわかる。
腫脹は血管透過性の亢進の問題である。
血管透過性とは、高分子のタンパク質や血球のような比較的大きなものが血管外へ出る動きが高まっていることである。
筋肉などへ走行する小動静脈の血管を拡張し、血管透過性を亢進するのは、ポリモーダル受容器から放出される神経ペプチドなのだ。
要するに、ポリモーダル受容器が興奮状態にある。

侵害刺激は、痛覚受容器を直接興奮させると炎症メディエーターをつくる。
それはブラジキニン、プロスタグランジン、セロトニン、ヒスタミンなどのメデイエーターであるが、おもしろいことに直接ポリモーダル受容器を興奮させる物質は、ブラジキニンだけのようだ。
その他の物質は間接的にポリモーダル受容器の興奮に関わるだけで、直接的作用はほとんどない。
そしてブラジキニンは、低濃度でもポリモーダル受容器を興奮させることが知られている。このことは極めて重要なポイントでもある。

さて、この患者さんは重力に対する圧力勾配・エナルギー勾配が不均衡になり、筋・筋膜組織で対応せざるを得ない状況が続いていたのだろう。当然そこには姿勢制御系の不均衡が係わってくるだろう。それが筋・筋膜への機械的刺激となり、ポリモーダル受容器を侵害していたものと考えられる。この刺激が解除されれば、ポリモーダル受容器の興奮も沈静化する。
c0113928_8552747.jpg
重要なのは、プロスタグランジンではなく、ポリモーダル受容器を侵害し続ける刺激なのだろう。

そのことによってポリモーダル受容器は、効果器としての多面的な作用の側面を発揮すべく活動し続けるのである。


熊澤先生の図からも窺えるように、小動静脈に拡張と透過性亢進に働く。
筋・筋膜にはポリモーダル受容器が存在している。
このポリモーダル受容器の機械的受容器が刺激され続けていることは、慢性的に炎症徴候の下地が消えることはないことになる。

直接的にであろうと、間接的にであろうと、筋・筋膜への対応は痛み治療の鍵でもある。
しかしながら、たとえ長期的な経過を辿ろうとも、末梢受容器が介在している病態は侵害受容性疼痛の延長線上にある。
身体の末梢受容器が炎症徴候として生理的に反応しているわけだ。
そこから厄介な慢性痛症に転化されることをくい止めること、そこに治療家としての重要な役割もある。
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by m_chiro | 2013-05-08 08:59 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
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