MPSの概念がない痛みの診断基準なんて「帯に短し」だなぁ~!
先日みえた中年のご婦人は、両膝に手をついて脚を杖代わりにしながら治療室に入ってきた。次のような経過を辿って歩くのが困難になったようだ。

10日前の朝のことである。起床して、歩きだしたら足元がヨタヨタして歩きづらい。
次第に歩けるようになったが、それでも右鼠蹊部や股関節周辺に多少の痛みがある。
そんなことが3日ほど続いて、4日目の朝にはとうとう歩けなくなった。
膝に手をついて杖代わりに歩かなければならない。右の鼠蹊部に腫れや痛みがある。

病院の整形外科を受診し、X-rayでは骨には問題がない、とされた。
でも、どこかに病巣があるかもしれないからとMRI検査を予約される。
それも一週間後ということになった。
MRI検査まで我慢しているのも辛いから、と治療にみえたのである。

この患者さん、寝ていれば痛まない。
寝返りなど動くと右股関節周辺が痛む。
直立歩行は辛いので、膝に手をついて腰を曲げて歩く。
動作痛で、深部反射は(+)である。
骨折など関節の病変もなかったわけだから、先ずは筋・筋膜障害を想定できる。
だが、更にMRIの画像診断の手順が選択された。

特に、股関節後面の筋群に過緊張と圧痛点(TP)がみられた。ある意味で単純な筋の病態である。
その筋群に負荷をかけたのであろうことが推測できる。
痛みの前日の過重負荷が問題かもしれない。

ところが本人は考えあぐねている。
例として、股関節を外転させる運動を模擬で示すと、ヨガ教室でそんな運動をしたことを思い出したようだ。「股関節はいのちだ」と教えられたらしい。だから、苦手な股関節の外転運動を一生懸命やった。
でも、この運動は股関節に「良い運動」と思っているので、憎悪因子として思い至らなかったようである。

TPのある筋群をリリースすると、直立して歩けるようになった。2回目の治療では通常歩行も可能になった。
MPSに思いが至れば決して難しい病態ではなかったのだが、治療は特異的な病巣の有無が画像的に明確になるまで待たされることになる。

昨年末には、筋骨格系の問題に対する診断基準が発表されたばかりである。
そのことを記事にした。「腰痛診察の在り方が変わるか!?」
そこでは、85%が「生物・心理・社会的モデル」とされ、画像診断は必要がないものとしている。
それでも画像診断依存は変わる気配もない。

加茂先生のブログ記事が明確に分けている「崩れゆく整形外科的理論」
痛みの画像診断は「悪性腫瘍、感染症、リウマチおよびその周辺の炎症性疾患、骨折、生来の不具合」の鑑別の意味しかない。
先日、先々日、ブログに書いたように、最近は「慢性痛」がトレンドだ。しかし、整形外科医の出番は少なく、主として生理学者やペインクリニック系、心療内科系が主役だ。整形外科の理論だと慢性痛をうまく説明できない。整形外科医はかわいそうなことに、人力車時代の勉強をさせられたわけだ。少しずつ頭を切り替えていかなくてはならない。痛みの損傷モデルでは生理学的にも疫学的にも臨床経過からも説明できない。
生物・心理・社会的モデル(機能的疾患、functional somatic disease、筋痛症モデル)」

MPSの概念がなければ、どこまでも特異的な病態を画像で探ろうとするのだろう。
結局、MPSの概念が欠落した痛みの診断基準なんて、「帯に短し」と言わざるを得ないように思う。
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by m_chiro | 2013-04-03 22:48 | 症例 | Trackback | Comments(0)
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