なぜ慢性的に続く炎症徴候が起こるのだろう?
●症例:2年間も続いている足首の腫れ●
かれこれ2年近くも左足首の腫れている、という中年の女性が他県からみえた。
跛行して治療室に入ってきた。確かに左足首のくびれがない。それほどに腫れあがっている。
距骨も内側に転位していて、特に内果周辺の腫脹が顕著で熱感もある。
軽く触れても、痛みでジャンプ徴候を示す。

これでも以前よりましになっているのだそうだ。
腓腹筋はこむら返りが頻繁に起きる。夜間痛もあり、睡眠が妨げられている。
右膝は3~4年も前から水が溜まりだしたが、現在は動作痛があるだけ。
以来、ここ数年は左腰臀部痛や頸部痛、頭痛などと、まるで痛みの転移現象でも起きているように悩まされてきた。
整形外科ではMRI検査で腰部ヘルニアと診断されたが、右膝のX-rayでは異常なしとされた。

いろんな治療を試したが足関節の腫れと痛みは、なかなか改善が見られないので大学病院を受診している。診断は「偏平足」で、特注の足底板を作ってもらった。それでも、一向に腫れも痛みも引かない。

●身体所見から●
身体の望診、触診、内圧変動(圧力勾配)などを観ると、左下肢には内側に頑強な停滞軸があり、圧伝導が頭方に抜けていない。圧力勾配が顕著である。
逆に右下肢では、外側に停滞軸がある。
姿勢制御系(Yaw1,2,3)をリリースする。右側方にシフトしている圧力勾配を調節し、その代償性の捻転体位の改善を試みた。この患者さんは、そもそも重力に対する対応が上手くできていない。だから、エネルギー勾配が偏向したままなのである。
そのために、その不均衡な圧力勾配を筋・筋膜が対応していて、障害がつくられているのだろう。
腫れてジャンプ徴候のある足関節部には、液性の還流を促すために伸縮性テープを用いた。

1週間後に再診にみえた時には、足関節の腫脹がほぼ3分の1に縮小し、夜間痛もこむら返りも跛行することもなく劇的に変わっていた。

●なぜ、2年近くも腫脹と痛みが続いたのだろう●
腫脹をもたらす元凶はプロスタグランジンによると生理学で学んだ。
この患者さんは消炎鎮痛薬(NSAID’s)を服用し続けてきた。プロシタグランジンの生成を抑えるための薬物である。それなのに腫脹はおさまることなく、2年間も続いていたことになる。

そもそもケガや火傷など、肉体的危機を回避するための警告として発痛物質(カリウムイオン、セロトニン、アセチルコリンなど)が作動する。
警告は感覚器から脳へ伝えられるわけだが、警報の大小あるいは強弱で言えば大は小を兼ねる。
そのための増幅物質としてプロスタグランジンが重要な働きをしているのだろう。
だからプロスタグランジンは、常に体内で生成され、緊急時には迅速対応に備えている。「眠らない物質」とも言えるだろうか。

プロスタグランジン生成の素材は細胞膜であるから、材料には事欠かない。
だからと言って、痛みや腫脹の炎症徴候をプロスタグランジンに責任を押し付けるわけにはいかない。
なぜなら、プロスタグランジンは反復的な筋や腱の運動で生成されているからで、そのことが即ち発痛を起こすとは限らないからである。

また、NSAID’sを事前投与していることで、プロスタグランジンの生成を抑えることができるという研究もある。そのことを記事にしておいた。
「PGE2は、炎症や痛みにどうかかわるのだろう?①」
「② 組織に損傷がなくても、PGE2は放出される」

この2年間も続いた患者さんの炎症徴候が、なぜ簡単な手法で止まったのだろう。
その疑問を読み解くと、痛みや炎症の根本的な問題に合点がいく。

さて、この患者さん「思い当たる損傷の経験はない」と言うように、2年間も損傷が続いているわけではないのである。
だから続いている腫脹は、プロスタグランジンに主たる責任がないことは明らかである。
その証拠にNSAID’sを服用しても回復しなかった。したがって、問題は緊急性のAδ線維の受容器興奮にあるのではなく、C線維のポリモーダル受容器にあることがわかる。

腫脹は血管透過性の亢進の問題である。
血管透過性とは、高分子のタンパク質や血球のような比較的大きなものが血管外へ出る動きが高まっていることである。
筋肉などへ走行する小動静脈の血管を拡張し、血管透過性を亢進するのは、ポリモーダル受容器から放出される神経ペプチドなのだ。

要するに、ポリモーダル受容器が興奮状態にある。
侵害刺激は、痛覚受容器を直接興奮させると炎症メディエーターをつくる。
それはブラジキニン、プロスタグランジン、セロトニン、ヒスタミンなどのメデイエーターであるが、おもしろいことにブラジキニンだけが直接ポリモーダル受容器を興奮させる物質らしい。

その他の物質は間接的にポリモーダル受容器の興奮に関わるだけで、直接的作用はほとんどない。
そしてブラジキニンは、低濃度でもポリモーダル受容器を興奮させることが知られている。
「痛み学」NOTE 59. 炎症・腫脹にみる合目的活動のダイナミクス③


さて、この患者さんは重力に対する圧力勾配・エナルギー勾配が不均衡になり、筋・筋膜組織で対応せざるを得ない状況が続いていたのだろう。
それが筋・筋膜への機械的刺激となり、ポリモーダル受容器を侵害していたものと考えられる。
この刺激が解除されれば、ポリモーダル受容器の興奮も沈静化する。

重要なのは、プロスタグランジンではなく、ポリモーダル受容器を侵害し続ける刺激なのだろう。
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by m_chiro | 2013-03-04 18:30 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
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