むち打ち症患者、何でこうなるの!?
-視覚系-小脳系のシステムから姿勢制御の代償作用へアプローチ-

8月に入ってからみえた「むち打ち症」の患者さん。中年を過ぎた女性である。
今年の冬に追突事故で負傷した。事故直後から首が痛み、外科医院で診察を受けたがX-ray(-)で、湿布と投薬の治療を開始した。

それから間もなくして、また追突された。今度は、友人に勧められて接骨院で治療を受けることになった。同じように首の痛みだけだった。ドロップするカイロベッドで施術されたようだ。治療中から頭痛がおこったが、「あなたは大分薬を飲んでいるから反応が出るんだ」と言われたとか。

それでも治療の度に頭痛、腰痛と痛む場所が広がっていくので、MRIを撮ってもらうことにした。結果は異状なしだった。接骨院での治療を中止し、最初事故で受診した外科医院に転医した。
電気治療と投薬の処方を受けて7か月が経過した、という患者さんである。

経過は良くなっているのか、悪くなったのか分からないと言う。
痛みは軽減してきたが、食欲はなく味もあまり感じない。下肢の冷えが起こり、眼もはっきりしないし、熟睡もできていない。とにかく体が疲れるようになり、脚に力がはいらないと訴える。
この猛暑に、タイツを履いて長ズボンに長袖を着用し、タオルケットを手放さないでいる。
当初の頸部痛が、自律神経症状に変化したような印象である。
筋力評価は、左下肢筋(腸腰筋、ハムストリング、殿筋など「3」である。数回反復させると、評価「2」としてもいいような状態である。右下肢では「4」。左右差が顕著である。筋のトーンも相対的に弱い。

このむち打ち症患者は、当初はおそらくケベック分類の「グレーⅠ」であったろうと思う。ケベック・タスクフォースの「むち打ち疾患(WAD)」の定義では、「加速-減速の機序による頸部へのエネルギー転移」とされている。
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この枠組みに入る症状には、「動きを促進するモビリゼーション、マニピュレーション、運動のような介入を鎮痛剤や非ステロイド系抗炎症剤と組み合わせて短期的に使う」ことを勧めている。
だからと言って、強い刺激による介入は、時に侵害刺激になって痛み症状をつくりかねない。
侵害刺激は、痛み症状よりも自律神経症状をもたらすこともあるのだ。
侵害刺激の応答は一様ではない、ということだろう。

このように刺激に敏感な患者さんには、マニピュレーションの治療計画はとらない方が賢明だろう。この患者さんのように、身体に傾斜や捻じれがあり左右差が顕著なケースでは、それが神経系の統合不全によって表現されたものと考えてみる。

まずは、神経学的代償作用を利用して姿勢制御系に働きかけてみたい。視線運動反射をチェックすると、ほとんど全方向で興奮/抑制バランスが起こる。視線運動性反射の遅延である。頭位と頸部の動きを組み合わせると、更に問題となる姿勢制御系の代償作用が明らかになる。

そもそも、重力場というヒトに共通する環境刺激の場で、関節や筋・腱、四肢の動きは求心性刺激として小脳を興奮させる。それから中脳、大脳・前頭葉へ送られ、最終的に小脳で誤差修正されて出力する。

中脳では線条体、淡蒼球の経路で興奮と抑制が行われ、感覚運動系を興奮させる。
視線運動反射に遅延があるということは、網膜での画像ブレの調整反射の遅れている証拠でもある。小脳系をはじめ感覚運動系の経路に出力バランスの不均衡が起こっているのであろう。

ここは視覚神経系と小脳の誤差修正機能を回復させることを狙いとする治療に専念することにした。視覚神経経路を想定して、そのルートに内圧変動による停滞を感じ取り、そのリリースを行った。

それだけで体幹や四肢の出力系が安定する。この方法で5回目の治療の段階で、食欲が出て下肢筋の左右差も評価「4」になった。味覚障害は残っているが、よく眠れているようだ。

末梢からの刺激に過敏に反応する患者さんには、ダイレクトに脳内の停滞した変動をリリーするだけで身体の姿勢制御系の不均衡も是正できる。
こうした方法を用いると、身体は、脳を介在した受容器と効果器の応答による仕組みであることが実感できる。
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by m_chiro | 2012-09-03 08:53 | 症例 | Trackback | Comments(0)
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