「かゆみ」と「痛み」感覚のメカニズムは違うらしい
人は「痛い」と逃げる。神経生理学的には「屈曲反射」(逃避反射)が起こる。
「かゆい」と掻く。これは「ひっかき反射」と呼ばれる。

反射のメカニズムからみれば、「ひっかき反射」の方が明らかに複雑だ。
おもしろいことに、ひっかけない部位に「かゆい」という感覚は起きないらしい。
そう言われれば、「胃がかゆい」と訴える話は聞いたことがない。でも、痛みは起こる。
だから「かゆみ」は、皮膚の表層と一部の粘膜に限られた感覚ということになる。

そもそも反射がこうも違うのだから、それぞれの感覚の機序が違っても不思議ではない。
ところが「痛み」と「かゆみ」は、同じ機序で起こっているように思える。
それゆえに「強度説」で解釈されてきた。

要するに「弱い痛み=かゆみ」で、痛み刺激のインパルスが微弱に伝導されるときに「かゆみ」として感じるのだという説である。

ところが、ヒスタミンを受容するレセプターが見つかり、その「かゆみ」を伝える神経経路も分かって、「かゆみ」は弱い痛みの感覚ではない、ということになった。
それだけではない。実は、認知領域も違うぞ、という研究論文が発表された。

それがsansetu先生から教えていただいたのが次の論文である。

"痒み"を感じる脳―"痛み"とは異なる"痒み"を感じる脳の部位を特定―/自然科学研究機構 生理学研究所

それによると、「かゆみ」は脳の「楔前部」で認知するそうだ。
「楔前部」とは、頭頂葉内側面の後方にある脳回のことである。

「かゆみ」の刺激を受容するのは、表皮と真皮の境界に分布するC線維の自由神経終末である。
この受容器が物理的刺激や化学物質(特にヒスタミンなど)によって刺激されることで活性化する。

もしも、このC線維の活動を局所麻酔薬で抑えると、当然、痛みは消失するし、「かゆみ」も消えるらしい。これも「痛み」と「かゆみ」が同じ機序だと勘違いするもとである。

また、ヒスタミンによる「かゆみ」を伝えるC線維は、機械刺激には反応しない。つまり閾が高い。
ところが、痛みのC線維は機械的刺激によく反応する。
これも痛みを伝えるポリモーダル受容器とは違っている。
皮膚の支配領域も違う。「かゆみ」の皮膚支配領域は、痛みの領域に比べて広い。

だから「かゆみ」に対して機械刺激を行うと、「かゆみの悪循環」が起こる。
掻くこと(物理的刺激)で末梢の受容器が活性化され、軸索反射が起こり、炎症の増幅をみるからだ。

「中枢性のかゆみ」(アトピー性皮膚炎、皮膚そう痒症、透析患者のかゆみなど)には、オピオイド受容体が関与しているようだ。
だから鎮痛薬のモルヒネを使うと「かゆみ」の副作用がおこるし、「中枢性のかゆみには抗ヒスタミン薬も効きにくいとされているのである。

「痛み」と「かゆみ」の機序は同じようで、実は違う。
かと言って、全く違うと断言するほど明らかでもない。類似点も多い。
そんなことから、「かゆみ選択的神経」と呼ばれることが多いのだそうである。
「かゆみ」のメカニズムには、まだまだ解明の余地がありそうだ。
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by m_chiro | 2012-07-06 22:43 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
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