「ゼロか、100%か」②情報が認知的側面に与える影響には侮れないものがあるなぁ~。 
慢性痛を抱える患者さんは、とかく動きや運動に対して恐れている。
かと思うと、100%頑張る。
この「ゼロか、100%か」の性格特性にも一因があるようだ。

こうした痛みの裏付けとなるような研究がある。滋賀医科大学の芝野忠夫・小山なつ先生らが行った「駆血帯疼痛試験」の研究で、血行障害のある筋では容易に強い痛みが起こりやすいことを示唆している。
その研究も、以前記事にした。
「痛み学」NOTE30. 「訳あり筋」が痛むわけ①
もしも筋に血行障害が起こると、その筋は反復収縮によって容易に痛みが現れるという。
この現象を指標にしたのが「駆血帯疼痛試験」である。

例えば、上腕の血流を20分間遮断しても、安静位を保っていれば痛くない。
ところが、最大握力の半分の力で握力計を2秒間隔で握る運動を反復すると、1分以内に痛みが出て、3分以内に耐えがたい痛みが現れるという。
下のグラフは、その研究の結果である。
c0113928_16445310.jpg

上腕の駆血は、ゴム製のエスマルヒ包帯をきつく巻いて血圧計のマンシェッテに空気を送り、内圧を200mmHgに高めて調査している。

グラフの縦軸は痛みの強度をあらわしているが、痛み評価スケールは最大の痛みを20として独自に設定している。横軸は秒単位の時間軸である。

この調査では30秒ごとに最大握力の50%の力で2秒間握らせ、2秒間のインターバルの後で再び2秒間握ることを反復している。

その結果を30秒ごとに独自の痛みスケールで評価したグラフである。
3分で最大疼痛評価(スケール20)に至っていることが分かる。

1分を過ぎたころから疼痛強度が高まっていき、3分で最大強度の痛みが現れる。
慢性的な血流障害があれば、動きによって容易に痛みが出やすいことがわかる。

そこで、この研究を逆手にとって、「ゼロか、100%か」の患者さんへの運動指導をしている。
つまり、運動は1分以内で行う。そしてインターバルを3分取り、完全な筋活動の休息時間にする。これを反復させるのである。

こんな患者さんがいた。慢性的な膝痛で歩けないという女性である。動きを恐れて安静にしている。
整形外科では廃用性の委縮になるからと、リハビリや運動が勧められている。
ところが運動中から痛みだし、それからしばらく動くのが辛くなる。
だから、安静にしている。
少し良くなると、今度は筋の委縮で動けなくなるのではないかと気になりだし、また在宅エクササイズを熱心にはじめる。そして悪化する。その繰り返しである。

私は次の方法を指導した。例えば、歩行運動では家の廊下を1分間歩いて、3分休む。この反復運動を行わせた。すると、あまり痛みもなく歩けるし、運動後に支障もでない。
ところが、「そんな程度の運動で痩せた筋肉が太くなるんですか?」と心配そうに尋ねてくる。
そして、インターバルの間に「足首の伸展-屈曲運動ぐらいならしてもいいですか?」、とまで言う。
どうも中途半端は嫌いなようだ。

この「1分活動/3分休息」運動を行っているうちに、家事も大分できるようになってきた。
「少しいいみたい」と言うようになって暫く経った頃、TVを見たと言って嬉々としていた。
「NHKで、閉塞性動脈硬化の歩行運動をやってました。足の動脈が閉塞した患者さんが、新たに動脈のバイパスが出来てくるんですよ。ビックリしました。私にもいいはずですよね」。

私はその番組を見なかったが、彼女の脳裏には血管が造られる映像がしっかり畳み込まれたようである。それ以後、この運動にも気持ちが入ったようでグンと活動性が増した。
下肢の冷えも取れてきたそうだ。
今は散歩に取り組んでいる。同じような患者さんで、「1分動/3分休」歩行からはじめて、一日5000歩以上を歩くようになった人もいる。

情報が認知的側面に与える影響には侮れないものがあるなぁ~。

映像、恐るべし、でした。
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by m_chiro | 2012-06-14 17:06 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
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Commented by bancyou1965 at 2012-06-14 22:44
先生、こんばんは。患者さんへの運動のアドバイス参考になりました。

逆に言えば、画像診断の負のインパクトが、治癒への大きな阻害因子となりますね。

昔、あるテレビ番組で、なにをしてもうまく痩せられない人に、肥満化した豚を解剖して、様々な肥満の弊害を直に見せることで、ダイエット成功に導くやり方を放送していましたが、視覚からの情報は、良くも悪くも強烈に変わりないですね。
Commented by m_chiro at 2012-06-15 08:32
bancyou先生、そう思いますね。
認知的側面への影響はプラスもマイナスも強い影響を持っているのでしょう。
それをうまく利用でいるといいですよね。
<< 愛犬家には必見のBS・TV番組... 「ゼロか、100%か」① >>



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