「痛み学」NOTE54. 何が、何ゆえにルートのポイントを切り替えるのだろう?
54. 何が、何ゆえにルートのポイントを切り替えるのだろう?

“Nociception Is Not a Symptom; Nociception Is Not Pain”

By David Seaman, DC, MS, DABCN

これは前回紹介した論文「Dysaffarenntation」の第一著者であるDavid Seaman D.C.が、“Dynamic Chiropractic”(Vol.24)誌に書いた論説である。
とても重要な見解を述べている。

Seaman,D.C.の指摘によれば、医師(MD)やカイロプラクター(DC)が間違えることのひとつに「侵害受容感覚(Nociception)と痛みを同じと見る」ことであると言う。
だからこそ、臨床家は神経科学の原則を等しく心しておくべきだと言うのである。

侵害受容感覚(Nociception)とは、侵害刺激を受容したときの感覚である。

その感覚が引き起こす可能性がある結果が「痛み」であるが、それはあくまでも結果のひとつに過ぎない。他にも様々な自律神経症状の結果にもなり得るわけで、侵害受容感覚は痛みやその他の症状とイコールではないのである。

要するに、この論説のタイトル「“Nociception Is Not a Symptom; Nociception Is Not Pain”侵害受容感覚は症状ではない;侵害受容感覚は痛みではないということだ。

そのことをよく理解するために、Bernard Feinstein博士の「局所痛と関連痛のパターン」を調べた研究(1954年)を取り上げている。

Feinsteinの実験では、被験者の棘間に高張性生理食塩水の注射を行っている。
この注射(深部侵害刺激)によって痛みを発症するルートはよく知られている(原文の図参照)。
c0113928_1834419.gif

Aδ線維からの求心性ニューロンは新脊髄視床路、C線維は旧脊髄視床路、これらの前側索系のルートを通って「視床」、「視床下部」に至る。視床からのシナプスから辺縁系に投射されて「痛み」や「苦痛」が生まれることになる。

この実験で重要なことは、高張性生理食塩水の注射ですべての被験者が痛みを経験したわけではない、ということである。

では、痛みを経験しなかった被験者のグループはどうなったのだろう。
彼らは、痛みの代わりに複合した苦しい症状に悩まされたのである。
どんな症状かと言うと、蒼白、発汗、除脈、血圧降下、気が遠くなる感覚、吐き気、失神などである。
Feinsteinは、これを「自律神経随伴症状」と呼んでいる。

同じ侵害刺激が痛覚系や苦しみの情動系のルートを辿るかと思えば、自律神経症状のルートを辿ることもある。

鉄道のレールでも、行先を変えるためにポイントの切り替えがある。

さて、侵害刺激という始発の感覚が、前側索系を経由して痛覚・情動系のルートへ、そこには「局所痛」へ行くルートと「関連痛」に行くルートがある。
あるいは自律神経反応賦活系(内臓症状)のルートもある。

それぞれが、行先のルートを変更するためにポイントが変えられる。
さて、そのポイントの切り替えは、何が、何ゆえに行っているのだろう。

謎解きは容易ではないが、「侵害受容感覚」は「痛み」や「症状」ではないとする区別だけは、しっかり認識しておく必要がありそうだ。

参考文献:「WITH YOU-JSC NEWS‐」Vol60、「侵害受容感覚(Nociception)は症状にあらず:侵害受容感覚は痛みではない」(David Seaman,DC,MS,DABCN、守屋靖大訳)
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by m_chiro | 2012-05-09 18:08 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
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Commented by sansetu at 2012-05-11 11:42
これは私たちにとって必須の認識ですね。と同時に、なるほど、それでか、と思えるところもあり、またまたリンクさせていただきます。いつも貴重な知見をご提供頂きありがとうございます。
Commented by m_chiro at 2012-05-12 01:15
先生、いつもありがとうございます。
徒手療法の運動系と自律系へのルートの問題は、ポイント切り替えのところが難問のようですね。
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