酩酊歩行から見逃し症例を学ぶ③
③ 私はなぜ見誤ったのか

この症例は、結果的に私が推論した「小脳-上部頸髄」にかかわる疾患ではなく、「第11胸髄」の疾患だった。私はどこで見誤ったのだろうか。ここはとても肝心なところだと思う。
結果的には「特定の情報に捉われて、身体所見のとり方が雑になった」ことに尽きるだろう。

先ずは、酩酊歩行である。よっぱらい様の歩行は「小脳」の問題とされている。ここに捉われた。
次にRomberg試験で、開眼立位でも大きく揺れたために側方から支えようとした。
閉眼では倒れる寸前で支えた。開眼立位で揺れるのだから、閉眼では揺れて当たり前である。
この開眼と閉眼での立位の差を考慮せずに、同じような揺れと見誤ったのである。
眼振はみられない。私はこの時点で小脳機能の問題を疑った。

しかし、Rombergテストは小脳機能のための検査ではない。また、開眼立位と閉眼立位での揺れの差が、明らかに閉眼立位の揺れが大きければRomberg陽性である。錘体路障害を疑わなければならない。感覚性失調である。
深部感覚の位置覚に問題があったのだろう。振動覚も調べるべきであった。

「ベイツ診察法」には「歩行と姿勢の異常について図示されている。下図は、その感覚性失調と小脳性運動失調の比較を抜粋したものである。とてもよく似ている。
c0113928_17373252.gif

それでも小脳の問題に捉われた。
指-鼻テスト、踵-膝-脛テストも陰性で問題ない。にもかかわらず小脳に固執したのである。
小脳も虫部の問題であれば、歩行失調は起こるが上肢の失調は起こらないとされている。
だから指-鼻テストは陰性でも、踵-膝-脛テストでは問題がみられたかもしれない。

そう考えると、酩酊歩行が歩き初めの数歩に限定されていて、その後何とか酩酊状態が落ち着いて来るのは、小脳が誤差学習をして調整しているからと考えられる。
だとすれば、小脳問題は除外できたはずであった。

バビンスキー徴候は2歳位までは出現する原始的な反射である。
しかも母趾の伸展、4趾の開扇徴候は障害の程度と並行するものではないとされる。
バビンスキーが典型的ではないとしても、障害の程度とは関係がないということである。

深部腱反射が上下肢で亢進(++)していたのでC5レベルより上位の障害を想定したが、神経質な人あるいはヒステリー傾向の人にも全体的な亢進はみられる。
したがって、そのことが確定的ではないとも言える。

思い込みや、特定の情報に捉われると本質を見失う。
そのために身体診察や観察を怠ることになる。神経学的検査はいくつも組み合わせて行うことが大事である。気を付けなければならない、と改めて思わされた。


セミナーの最前列で役務上、監視参列されていたJSC会長の荒木寛志先生が、私の問題提起に対して、即座にA4用紙5枚にRomberg等の平衡試験に関する詳細なレポートを「神経症候学・第2版」からのまとめとして送っていただいた。「神経症候学」はとても高価な極め付きの専門書である。
ご自身のブログでも平衡試験についてまとめていただいた。
http://blogs.yahoo.co.jp/gdmfd345/8355208.html
http://blogs.yahoo.co.jp/gdmfd345/8355208.html

ありがたいことである。荒木先生とは、それほどに探究心も大盛で、メンバーのために情報提示を惜しまない人である。

また、学兄・馬場信年先生にもセミナーに列席いただき、その感想をご自身のブログに感想を寄せてくださいました。恐縮の極みです。
カイロオフィスすこやかブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/chsukoyaka/29409325.html
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by m_chiro | 2012-03-08 17:44 | 症例 | Trackback | Comments(2)
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Commented by bancyou1965 at 2012-03-08 22:51
先生、こんばんは。

詳しい解説ありがとうございました。

ご紹介いただいたブログとあわせ読むことで、よく理解する事ができました。
Commented by m_chiro at 2012-03-09 12:31
bancyou先生、参考になることがあれば、よかったです。

失敗から学ぶことは多いですね。
<< 「聞く力」(文春新書) 酩酊歩行から見逃し症例を学ぶ② >>



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