酩酊歩行の症例から見逃しを学ぶ①
①Romberg(開眼立位/閉眼立位)テストから除外した症例
富山セミナー(2.25-26)で、私が経験した症例を引用して「病態推論」の手法を実際に行ってみた。
症例の患者さんは60代の女性である。
症例検討の手順に従って、訴えを要約(OS)すると以下のようになる。

いろいろとストレスが重なり疲れていた7か月前、踏み台から飛び降りた時に両膝がカクッとなった。それ以来、歩き初めに不安定感があり、腰臀部から脚にかけて下半身が重だるい感じがする

この患者さん、「7か月前に踏み台から飛び降りた時に、両膝がカクッとして....」と説明しており、一見、その飛び降りたことが原因で起こった損傷が長引いていることを連想させる。実際、セミナーの参加者からも損傷からの推論が目についた。しかしながら、こうした患者さんの説明や思いに捉われると、時に思わぬ「見逃し」をすることがある。要注意である。

さて、OSにおける最も重要と思われるキーワードは「歩き初めの不安定感」にある。
先ずは、そこを突いていく必要がある。
患者さんは「歩き初めにふらつくが、数歩あるくと大丈夫になる」と説明する。確かに、治療室に入ってくる時には、ふらつきがあるような印象ではなかった。

そこで、椅子から立って歩いてみせてもらうことにした。
なんと、「酩酊歩行(よっぱらい歩行)」である。5~6歩もあるいたろうか、何とか落ち着いて歩くことができるが、よく観察するとゆっくりで両脚は僅かに広げかげんで歩く。

酩酊歩行は、小脳疾患あるいは前庭神経障害の徴候である。眼振はみられないので、私は即座に「小脳」の問題を想定した。直線歩行でも、継ぎ足歩行でもよろめく。両足を広げ気味にすると大丈夫だと、患者さんは主張する。

次に、Romberg(ロンバーグ・テスト)を行った。
最初に、開眼立位を行わせたところ揺れる、よろめくほどに揺れる。私の理解では、開眼立位で揺れるケースでは小脳を疑う。Rombergは、閉眼立位で揺れるケースで陽性である。開眼で揺れれば、閉眼でも揺れるので、この時点でRomberg陰性とみる、と解釈していた。
以下に私の書棚からのRombergテストの解釈を提示しておこう。

「ベッドサイドの神経の診かた」(1985、3刷、57頁)より
Romberg’s sign
両足を揃えつま先を閉じて立たせ、体が安定しているかどうかをみる。つぎに閉眼させて、身体の動きをみると、大きくゆれて倒れてしまうことがある。これを陽性とする。
正常な人でも閉眼時には、眼を開いているときのように安定して立っていられないことがあるし、きわめて神経質な人ではこのテストが陽性に出ることがある。
脊髄の後根、後索を侵す疾患、例えば脊髄勞などでこのsignが陽性になる。
小脳疾患や前庭系の障害では、起立時に眼を開けていても動揺を示し、閉眼しても著明な変化はない。

「整形外科テスト法」(ジョセフJ.シプリアーノ著、2004)
ロンベルグテスト
理論的根拠:このテストは、小脳テストそのものではない。しかし、眼を閉じたときに体が揺れるようなら、脊髄後索の障害が示唆される。小脳の機能障害のある患者は、眼を開けていても体が揺れるが、眼を閉じるとさらにひどくなる。

「ベイツ診察法」(2008、629頁)
Romberg試験
位置覚をみるための最も基本的な検査である。まず、開眼の状態で両脚をそろえて立ち、次に20~30秒間、支えないで観察する。患者が直立の姿勢を保つことができるかを観察する。正常では、動揺がみられることがあってもごくわずかである。
(小脳性失調では眼の開閉にかかわらず、両脚をそろえて起立姿勢を保持することは困難である。)


ここで問題なのは、開眼立位の揺れに対する解釈である。
この患者さんは、両足を揃えて開眼立位させたところ、即座にふらついたので側方から支えたのである。
そして閉眼立位では更に揺れたので、ここでも側方から支えた。
さて、これをRomberg陽性とみて錘体路の障害を疑うべきか、あるいは陰性とみて小脳疾患を想定するか、ここが悩みどころである。

私は陰性とみなした。その上で、小脳疾患を想定して「指-鼻テスト」と「踵-膝-脛テスト」を行わせたのである。ところが、このテストでは陰性である。正常なのだ。
さてどうしたものか?
また、悩まされた。

次に深部腱反射を行った。
結果は、上肢、下肢共に(++)である。つまりクロースのない亢進である。
バビンスキー徴候も明白ではない。母趾が僅かに伸展したり、しなかったり、曖昧である。
(±)だろう。

私はこの時点で、小脳および上部頸椎に何らかの変性あるいは病変があるのではないか、と推論したのである。
そして、この患者さんを県立病院の神経内科あるいは脳外科を受診するように勧めた。除外したのである

さて、治療家のみなさんはどう推論するでしょうか?

(長くなるので今回はここまでにして、結論までは更に続きます)
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by m_chiro | 2012-03-06 08:26 | 症例 | Trackback | Comments(0)
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