「説明モデル」から、思わぬ状況が見えてくる
「NBM(物語に基づく医療)」という考え方が推奨されるようになって、患者が自分の症状や病いをどのように捉え理解しているかを聞き出すことが求められている。
これを実際に臨床に採用するには、かなりの熟練が必要のように思う。
それでも、未熟なりに応用していると、思わぬものがみえてくることがある。

先日、こんな患者さんがみえた。
中年の管理職の男性である。1か月ほど前から頚胸移行部が苦しくなるのだと言う。
それも朝方に目覚める頃に始まって、起き出して暫くの間に限られている。

「どうして、そうなったんだと思いますか?」
「何か思い当たることはありますか?」
と振ってみるが、「ない」の即答である。
ここで引き下がっては、「説明モデル」の聴取はできない。

「どんな些細な生活の変化でもいいんですよ。それが参考になることがありますから。症状を自覚するのが寝起きに限られているようですから、例えば枕が変わったとか、寝具が変わったとか、布団に入ってからTVを見たり、本を読むようになったとか、生活リズムの変化でも、眠りの質でも、何でもいいのです。思い出したことがあったら、いつでも言ってください」

「あっ、枕を2つ重ねで高くして寝るようになりました」
「何で、そんなに高くするようになったんですか?」
「最近、いびきが大きくなったと言われて、枕を高くしていると善いようなんで...」

「そうですか。いびきが大きくなったのが気になっているのですね。それで枕を高くして寝るようにしたわけですね」
聴取では、反芻して確認を取るのが大切だとされている。問題を共有するための確認である。

この患者さんは頚肩部の痛みを主訴としているが、実は「いびき」が気になっているのだ。
いびきの原因にはさまざまな要因が考えられているが、いずれも決定論的なものではない。
疲労やお酒の飲みすぎなども指摘されるが、これらは一過性なのだろう。
肥満や加齢現象で咽頭周辺の筋力が低下したり、気道が構造的に狭くなることも要因になっているかもしれない。アレルギーによって扁桃周辺の腫れがあるのかもしれないし、顎の構造的な問題があるかもしれない。

身体所見をとると、右の僧帽筋や肩甲挙筋のトーンが低下している。そのために肩甲骨が下垂し、耳の位置にも変位がある。
僧帽筋は副神経支配である。副神経は僧帽筋や胸鎖乳突筋を支配する。
僧帽筋のトーンの低下は関連症候かもしれない。
舌下神経も純粋に運動神経で、下の動きに関連した筋群を支配している。
舌の前方突出運動で変位はみられないが。左右への運動筋で抑制バランスが保てない。
小脳テントにも内圧の変動があり、上部頸椎と関連するリリースを行って、再評価してみた。
僧帽筋のトーンが大分回復し、肩レベルも左右バランスされてきたようだ。

この患者さんの「いびき」も咽頭周辺の筋力が低下したためのものかもしれない。
私の推論を説明した後、高枕を控えるように指導しておいた。

その後「いびき」はどうなったか分からないが、2日後に患者さんを紹介していただいた。
結果、よかったのだろうかなぁ~?
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by m_chiro | 2011-12-19 14:46 | 症例 | Trackback | Comments(6)
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Commented by ひつまぶし at 2011-12-21 22:20 x
これが、通りいっぺんの聞き方だったら、「何か変わったことは?」「ない」「そうですか」で終わってしまってたところですね。
「聴く」って大事ですね。相手の言葉を反芻するところも、まるでコーチングの授業みたい。
Commented by m_chiro at 2011-12-23 09:19
思い当たることを尋ねると、患者さんはほとんどの人は「損傷モデル」に思いを巡らすようですね。だから判で押したように、「ない」と言われます。
そこうをどう突破するか、「聴き取り」は難しいと思います。
なかなかうまくいきません。
ひつまぶしさんの心にとめていただいて、ちょっぴり嬉しくなりました。

私が何を意図して聴いているのかに慣れてくると、結構いろんなことを話してくれます。そこまで聞いてない!、と言うようなことまで。。。(W)。

毎日が練習です。聴き取りは難しいなぁ~、と思いますが、大事なことだと思っています。

Commented by ひつまぶし at 2011-12-23 11:33 x
>そこまで聞いてない!、と言うようなことまで。。。(W)。
いえ、きっと「この先生には話しても大丈夫、受けとめてくれる」と患者さんは安心できるのでしょう(^^) 守屋先生は、患者さんの膨大な告白の中から、必要な情報だけ瞬時に取り出しているわけですね。

>患者さんはほとんどの人は「損傷モデル」に思いを巡らすようですね
逆のパターンも起きつつあるかも知れないですね。
例えば、守屋先生や加茂先生のブログで勉強している患者さんが、痛みを感じて、初めての整形外科にかかったとします。
医者のほとんどは損傷モデル信者ですから、頚椎にヘルニアがあるなどと言ったとたん、整形の医者の頭はそっちの方向で動き出してしまう。筋肉の治療をしてくれない恐れがありますから。(X線を撮られたらバレますが)
患者が情報を隠すことで、診断や治療法を誘導してしまうことになるんでしょうかしらね。。。
Commented by タク at 2011-12-23 13:33 x
先生、こんにちは。

問診の下手な医師/治療家が多いですねー。医師の場合、忙しいからでしょうか。
治療家の場合だと、大抵予約ですからね。時間が確保されてる。

段々、私の治療院、医者めぐりも、グルメ評論家のごとくその治療者の評価的な面も入ってきまして(悲しい性)。

例を挙げると。
Q[今、XXXXXはしてますか?」
A「いいえ」

私、素人だから質問された事だけ答えてます。

でも、心の中で「10年くらい前はXXXXしてたんだが」と心の中でつぶやく。
この痛みはその頃の発症なのだが、関係ないからいいのかな~。

治療家に多いのですが、理学検査の途中、
「なんか、XXXXXとかしてませんでしたか?」
そう聞かれると「YES]と答える。
Commented by m_chiro at 2011-12-24 21:47
ひつまぶしさん、一般に行われている「問診」は、治療する側が聞きたいことだけをyes,No式に答えを導くようなフローチャートのような進め方ですね。
だから、情報を隠しても隠さなくても、導かれるところは決まっているような気もします。
近年、推奨されている「聴取」は、いわば「インタビュー」のようなもので患者さんの思いを引き出す手法が要求されているように思います。
だから、難しいなぁ~、と思います。
私なぞは、まだまだです。
ただ、心がけていることは、「ウン、それで、それで。。。」、「へぇ~!」などと合いの手を入れて、患者さんの話に興味深げに関心を示すことでしょうかね。
Commented by m_chiro at 2011-12-24 21:58
タクさん、そう、そう。。。。
「はい」か「いいえ」の返事を期待するような聞き方ですよね。
Yes、Noへ導いているんです。

でも、「問診は大事だ」と教わるんです。臨床マニュアルには、必ずそう書かれています。
その割には、大事な問診をアシスタントに任せたりします。
私もそんな頃がありました。反省です。

今頃になって、心がけるようにしてるものだから、難しいと思うんでしょうね。
タクさんのような厳しい眼を持った評価は、有難いことにグサリと来ます。
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