痛みは脳の中にある ③共有できない痛みの波紋
痛みは脳の中にある
③ 共有できない痛みの波紋


同じ痛みを共有することは誰にもできない。
このことは患者サイドと医療サイドの双方に深刻な問題を投げかけることになった。

患者サイドに発生した問題は、「痛みを分かってもらえない」ということにはじまる。
そのことが「適切な治療を行ってもらえなかった」、という医療への不信感となって現れる。
そして、ついには医師の個人的能力を疑いだす。
「きっと、どこかに私の痛みを分かってくれるお医者さんがいるに違いない」。
痛みに苦しむ患者さんは、いつも希望を捨てることはない。

フリーダ・カロの「希望の樹」という絵は、そんな患者心理をよく表現している。
心の願いと医療の現実を、2元論的手法を駆使して描いている。
そうした患者の願いがドクター・ショッピングに駆り立てる。
それが社会的問題にまで波及することとなった。

20世紀末にアメリカでは、痛みによる社会的損失の実態を調査している。
それも数回にわたる大規模な調査である。

1978年の調査では、アメリカ国民の3分の1が慢性痛を抱えていることが判明した。
そのために就業不可となった延べ日数は約7億日にのぼり、労働損失も膨大な額になる。もちろん直接医療費あるいは間接医療費の支出も膨大である。なんと当時のレートで約12兆円が計上されている。

1982年には、米国国立保健研究所(NIH)が調査した。その結果、アメリカ国民の6,500万人が慢性痛を患っていると推計されている。日本では製薬会社のムンディファーマー社が調査した結果、2,315万人の慢性痛患者がいるとした。慢性痛保有率は22.5%で、日本人4.4人に1人の割合ということになる。人口比にすれば、アメリカと遜色ない比率になるのだろうか。問題なのは、治療に対する患者さんの満足度である。痛みが緩和されているのかと言えば、70.7%が緩和されていないという調査結果が示されている。

1988~1999年には、アメリカ疼痛学会(APS)、アメリカ痛み医療協会(AAPM)、Janssen parm(製薬会社)の3者による合同調査が行われている。それによると、アメリカ国民の45%が一生に一度は強い痛みでケアや治療が必要とされ、国民の17%が関節炎の痛みを抱え、15%が頻繁な背部痛を経験している。背部痛にいたっては、年間2,500万人が治療を受けている。

アメリカ国立労働安全衛生研究所の推計では、労働生産性の損失は年間1,000億ドル(約11兆円)と推計されている。

これらの調査結果によって、痛み問題が3重苦状態にあることが明らかになった。3重苦の1つは、治療薬や治療法の開発も含めて研究の遅れである。2つめは、医学教育の中で、痛みの教育が欠落していることである。3つめは、痛み治療が不適切であること。

この現状を受けて、アマリカ政府の対策は「痛み10年宣言」の採択であった。
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by m_chiro | 2011-11-28 15:51 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
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