除外診断を依頼した高齢婦人の頭痛
ある高齢の女性の症例である。
大震災後の3月末頃に右の耳鳴りからはじまって、めまいと吐き気に襲われた。 病院に4日間の入院で良くなったが、今度は4月11日に再び右の耳鳴りからはじまり、「頭が裂けるようなガンガンする頭痛」がはじまった。 頭痛がくる前兆は眼の熱感で、それが頭部全体に及んでガンガンする痛みとなるらしい。 再度、病院で診察を受けたが、X-rayで問題なしとされて鎮痛剤を処方された。 だが、一向に改善しない。お医者さんに訴えても「何歳になったと思ってるんだ!」と言われるだけだ。「年を取ったからと言われても...」と嘆く。 就寝中でも痛みが繰り返し、眠れない。そんな時は夜中でも起き出して、冷蔵庫から氷を出して冷やすのがいいらしい。そんな日が4ヶ月も毎晩のように続いて食欲もない、と言う。 そんな高齢の老婦人が、何とかならないものだろうかと、娘さんに連れられて治療にみえたのは8月初めのことだった。 足腰は衰えて杖を使っている。右膝が変形してから杖を使い始めたようだ。 上肢も下肢も深部反射は出てこない。 頭部に触れると右の頭頂骨と側頭骨が膨張したように膨らんで律動が停滞している。 どうも血管の拡張性頭痛のようだが、先ずはこの頭部の停滞した律動を回復させることをねらってみた。 頭蓋のメカニカルな動きを回復させるために直接可動させる手法ではなく、内部からの律動を誘発させる手法を用いた。 それでも、なかなか思うように律動が起きてこなかった。 やがて頭頂骨と側頭骨が呼吸をはじめたように律動してきたので、触手を後頭骨から後頭底に移動させた。 すると、患者さんの顎がカクカクとクローヌスのように動き始めた。 あれっ!、と思って下顎反射を検査すると、上・下肢の深部反射とは相対的にやや亢進気味である。 発症の経過からみて「橋」の障害を疑った。とは言え、マニュアル神経学検査では、あのバビンスキー兆候でさえ一過性の現象が認められることもあり、陽性反応の兆候は総合的な判断が大切である。 もう少し様子を見ようと、下顎の動きが起きないポイントまで触手を移動して、更に後頭骨の律動を誘導した。 すると、今度は身震いするように身体を震わせる。では、仙骨から誘導してみようと、仰臥位のまま仙骨に手掌を滑り込ませて待つことにした。それでも身震いが連続して起こる。 この現象が起きない部位を使って、何とか頭蓋からの律動を促した。 治療後は頭痛も随分軽くなったと喜んでくれたのだが、さて、下顎反射の相対的な亢進状態が気になって、除外診断をお願いすることにした。神経内科医に紹介したのである。 治療の翌日、患者さんから電話があり「夕べは頭も痛まずにぐっすり眠れたので、このまま治療を続けてもらえませんか」とのこと。 治療を続けるのはかまわないけど、気になるところをはっきりさせたいので診てもらうように、と再度お願いしておいた。 その神経内科の先生も、MRIを通常の倍の時間をかけて撮り、丁寧に読影してくれたようである。 結果、年齢相応の変性はあるが病的な所見は見当たらない、ということであった。 やれやれ、である。 その1週間後に、また治療にみえた。氷を使わなくてもよいほど楽になった、と言う。 下顎反射が出なくなっている。顎がカクカクと動き出すのも消えた。 あれは一体何だったのだろう。 以来、週に1回の割合で治療を続けて5回治療を行なった。 治療を重ねるごとに痛みが薄れ、範囲も狭まり、身震いも起きなくなった。 「ご飯がこんなに美味しかったのか」と、つくづく思えるようになったらしい。 先日は、畑にも出かけるようになったと、お彼岸用に仕立てた立派な花を頂戴した。 重篤な問題が除外されて、順調に回復できたことが何よりだった。
by m_chiro
| 2011-09-25 00:02
| 症例
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