再び、第3の循環系「脳脊髄液」について①
① 誤れる脳脊髄液の循環経路

先日の記事『「解剖学の抜け穴」を読む』に、sansetu先生が髄液循環の意義について推論を述べておられた。「揺らし」という技法からの感想である。
私は「揺らし」という技法についてよく知るところではないが、「振動伝播」という考えからみれば納得させられるご意見であった。
髄液循環と揺らしメモ
血液、リンパ系に加え、髄液系をも含めた循環系を提唱しています。もっともだと思います。揺らしではいくつかの場所と方法に分かれますが、特に体幹では作動部の一つである腰椎間の押し引きにより髄液にも振動を与えていることが考えられます※。
それに加えて立位で圧縮され縮んだスポンジのようになっていた軟部組織(たとえば椎間板)に体液を供給する効果もありそうなことがバドマン博士(飲水療法)の仮説からうかがえます。
なぜ揺らしは交感神経緊張の緩和に絶大なる直接的とも思われる直後効果を発現するのか。
理由は分かりませんが、髄液との関係も絡んでいそうです。
※腰椎にはL1から下部には脊髄はありませんが、椎骨に対して「伸ばす圧する」を繰り返す物理刺激は髄液圧にも影響が及ぶと考えます。

ところで、この脳脊髄液の循環について、解剖学の成書では先ずお目にかかれない。
お目にかかれないから、その循環経路については知らない。
知らないということは、存在しないに等しい。
だから、頭蓋療法(クレニオパシー)を行う治療家も曖昧な物言いになる。

さて、上述の「解剖学の抜け穴」では、「この経路を示した教科書は世界中に(一つの例外を除いて)一冊もありません。唯一の例外が、藤田恒夫氏の教科書の最新版です」とある。

早速、その世界で唯一の教科書を探してみたところ、藤田恒夫著ではなく藤田恒太郎著の「人体解剖学・改訂第42版」にたどり着いた。

届いた著書をみると、確かに440~441頁見開きで「脳脊髄液」という小見出しで2頁にわたり解説されている。
そこには橋本一成先生の下図が掲載されていて、その循環経路が表にしてある。
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脳脊髄液(髄液)は4つの脳室の脈絡叢でつくられる。
脈絡叢は、脳室にある腸の絨毛に似た構造(上皮性脈絡板)で、ここから髄液が分泌される。

一日に生産される髄液は400~500mlで、全量は平均130~150ml、これを一日に3回以上入れ換えている。

4つの脳室を満たした後に、第4脳室の天井部にある3つの孔(正中のマジャンディ孔と左右外側のルシュカ孔)からクモ膜下腔に出る。
また、脊髄を下降した髄液は脊髄末端の終糸にある第4の孔(中山の孔)からクモ膜下腔に出て上行する。

そして脊髄のクモ膜下腔まで戻り、脈絡叢とそれに付着した脳室周囲器官にある「静脈性毛細血管」から「静脈」へ吸収される、と解説している。

中山の孔」は、中山雄三先生が1972年にその存在を小動物で発見し、それを追試する形で橋本一成先生らが1993年に霊長類(8例の遺体と2例のニホンザル)に初めて認めた流出口である。

私たちが習ったのは、脳天にある「クモ膜下粒から上矢状静脈洞に流入する」という経路である。
下の図(ネッター解剖図譜・神経Ⅰ)は、クモ膜顆粒と上矢状静脈洞が詳しく出ている。
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さもありなんと思わせる図だが、これは1914年にアメリカのウイードが説いた仮説なのだそうだ。
百年ほど前の仮説が改められることなく流通しているということになる。

クモ膜顆粒は乳幼児や胎児にはない。
ということは、この説はやはり怪しい。クモ膜顆粒が髄液の流出口であれば、「すべての新生児は水頭症になるでしょう」と橋本先生は書いている。

実験小動物も、脈絡叢や髄液はあってもクモ膜顆粒は生涯にわたってないそうだから、ますますもって怪しい説である。

橋本先生は、この液循環系を「第3の循環系」であると主張している。
そして、この循環経路は末梢神経の神経周膜に連続して全身の神経にそって分散している、とされている。
が、「神経周膜下のスペースを髄液がどのように移動しているかは、これは未だ不明」だ、と「人体解剖学」書では「脳脊髄液」の項を結んでいる。

さて、この末梢神経の周膜を脳脊髄液がどのようにして移動するのか。

椎間板への血流経路は成人になると絶たれ、それに代わってリンパ液が椎間板を養うのであるが、これは振動伝播であれ、運動であれ、外部からの入力が大きな割合を占めるのだろう。
では末梢神経の髄液動力は?、となると想像ですらその機序が浮かんでこない。

これが明らかになると、徒手療法が果たす効果の背景が見えてきそうな気もするのだが。。。。
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by m_chiro | 2011-07-22 22:35 | 膜の話 | Trackback | Comments(0)
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