「ひづめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬を捜せ」
5月27日午後9時56分、その事故は起きた。北海道占冠村JR石勝村のトンネル内で特急列車が脱線炎上したのである。この事故で39人が病院に搬送されるという惨事になった。それも乗客の避難の遅れが原因だという。
異常時に対する対応の乗務員マニュアルでは、火炎の目視が求められているのだそうである。これでは煙が出ても火を乗務員自ら目で確認しなければ、乗客の安全確保と避難誘導に結びつかないことになる。今回はトンネル内での出来事である。 運転席の火炎ランプが点灯したが、トンネル内には煙が充満していて火を目視で確認できる状態ではなかったのだろう。ドアを開けたとしても煙が入ってくる。結局、ドアも開けられず、この惨事につながった。 この事故を受けて、読売新聞コラム「編集手帳(5月31日)」の著者は、推理小説「真犯人」(P.コーンウイル、相原真理子訳)の中で、主人公の女性検屍官が語った言葉を引用して危機管理意識について書いていた。原文からそのまま引用しよう。 「医学校時代によく言われたの。ひづめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬を捜せって。一番ありそうな診断をしろってことね」 煙がひづめの音だとしたら、火災は馬である。ありふれた原因である火災を想定して対応すべきであり、故障(シマウマ)を捜している場合ではない、と危機管理対応の拙劣さを著者は嘆いているわけである。 「ひづめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬を捜せ」とは、アメリカの諺らしい。菊地臣一教授は自著「非特異的腰痛のプライマリケア」の中で、この諺を引いて「ひずめの音を聞いて研修医はシマウマを、専門医は馬を思い描く」と書いている。正当なアプローチとは、一般的なありふれた病態から考えていくべきだということである。 だが筋骨格系の痛みに関して言えば、どうもシマウマを探すのは研修医に限らないようだ。専門医も同様の状況のように思える。 ありふれた病態とは、実は素人の方が感覚的によくわかっているのかもしれない。だが、その素人が専門医によって、本質をどんどんすり替えられている。専門医だけでなく一般的な見方が、シマウマから馬にすり替わっている状況が続くとしたら、ありふれた一般的な考え方にはいつまでも思い至らないことになる。トンネル事故の惨事が身体に起こってから気づく人がいたら、それも不幸なことである。 加茂先生の記事「慢性痛」からは、昨今の痛みの治療に対する医療界の取り組みの状況が垣間見える。急性痛の治癒を長引かせないこと、これも慢性痛への移行を防ぐ上で重要なことだということが分かる。 ヘルニア、脊柱管狭窄、すべり症、軟骨変性・・・急性痛のときにこのような診断をして、「様子をみましょう」「湿布とお薬」「電気をあてる」このような診療をするから慢性痛になる可能性が増えるのです。 このような対応が医療で行われている限り、一般的な考え方が定着するのは遠い話である。 先日みえたギックリ腰の患者さん、身体が「く」の字になって整形外科でレントゲン写真を撮ったそうだ。整形外科医はグニャリ曲がった背骨を見て、「こんな腰でよくこれまで生きてこれたもんだ!」と言ったらしい。「背骨は一生治らない」とも付け加えられた。確かに骨の病理的問題が見つかったのかもしれないし、一生治らない骨病理なのかもしれない。が、今の患者さんの問題は、急性痛にあるのだ。 私は、「痛みは3日ぐらいがピークで、後は順調に回復する」と話した。4日目に再診でみえたが時に「ほんとに3日でよくなった」と、普通の状態でやってきた。ギックリ腰などの炎症性の痛みは、そんなものだろう。問題をややこしくしなければ、早い回復につながるのである。 スタート時点での対応を誤らないようにしいたものである。
by m_chiro
| 2011-06-22 12:24
| 痛み考
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