「恐れ-回避モデル」は、なぜ痛みの憎悪因子になるのか?
前回の記事の続きです。
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上の図は「fear‐avoidance model(恐れ―回避モデル)」とされるもので、痛みの悪循環に陥る典型的なパターンが示されている。
「痛みの体験」に対する対応の在り様で、その後の痛みが両極端に変わるというもの。

ひとつは痛みに対する正しい情報を与えることで、痛みと対応する楽観的で前向きな態度に導くことができる。結果、痛みが軽快し、回復も早めることができるというものだ。正しい情報を与えて、痛みを知ってもらうというのが鍵である。

もうひとつは対称的である。痛みの元となる誤った認識に基づいて脅す、あるいは悲観的な感情を生み出させる。画像は、それを増幅させるツールにもなる。
「ガラスの腰」という説明は、確実に脆さをイメージさせることができる。
そうした説明が頭から離れない人も中には居る。
何しろヒトの記憶の保有時間は魚類などと違って随分と長い。だから印象的で強力な体験は更に記憶を強固にしてしまう。
その結果として不安や恐怖から過剰な警戒心が生まれ、不安要素を極力避けて過ごすようになる。
行動の抑制が廃用性の障害を生み、機能障害をもたらし、そしてうつ傾向となる。
こうした抑制された心身の状態は、痛みを悪化せる因子として作用する。悪い循環にはまるのである。

では「恐れー回避モデル」が、なぜ痛みの憎悪因子になるのだろう。その神経機能の仕組みとも考えられる研究論文がある。

この論文は、理化学研究所が「進化的に保存された恐怖反応を制御する仕組みを解明」した研究で、2010年に10月10日付けで「Nature Neurosciennce」のオンライン版に掲載された。

脊椎動物は危機に対する対応を獲得してきた。それは生存のために不可欠な能力であり、進化の過程で生得的な能力となった。
例えば、突然、捕食者が現れると動物は恐怖に晒される。その危機対応は「逃げる」か「すくむ」かである。こうした状況下での行動選択は、動物の生死を左右する事態である。

これらの反応を生み出す神経系は、間脳の「手綱核」から中脳の「脚間核」へと接続されている回路に依存されていることが分かった。これが研究のテーマだった。それを明らかにしたのである。

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「手綱核」は、外側と内側に亜核を持っている。論文にある上図からも分かるように、それぞれが別ルートで「脚間核」に入っている。左右の手綱核からの外側(赤)と内側(緑)からの回路は逆転し、大きさの比率も逆転しており左右非対称であるが、脚間核に入る時には外側回路(赤)は背側へ、内側回路(緑)は腹側に入る。
そして内側回路は、腹側からセロトニン神経の多い縫線核に投射している。興味深いことに、脚間核の背側と腹側の交通はほとんどない。

この研究で、恐怖やストレスの「逃避行動」あるいは「すくみ」の「行動選択」に関わっているのは外側亜核の回路だということが分かった。そして内側亜核の回路は「戦略的行動プログラム」に関わっているとしている。「すくみ」と「逃避」の行動を担う回路が別々に存在するというわけである。

外側亜核の回路を選択的に阻害すると、「すくみ反応」が起こるのだそうだ。
論文の図に示されているように、ゼブラフィッシュによる実験の動線では「すくみ反応」になっている。
したがって、ストレス反応に対する「行動選択」は「闘う」「逃げる」という戦略プログラムを作動できなくなって、「すくむ(行動抑制)」しかなくなるのだろう。
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そうなると、セロトニン神経系の活動に問題が生じる。
よって、下行性疼痛抑制系の鎮痛機序も作動し難くなるのだろう。
結果的に、痛みが治り難くなる。

不安を煽って恐れを抱かせ、行動を抑制することは、痛みを治り難くするだけでなく、うつ傾向や精神疾患をもたらしかねない、という構図がみえてくる。
この論文から、そんな係りを読み取ったのだが。。。。。。。
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by m_chiro | 2011-05-23 23:35 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
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Commented by sansetu at 2011-05-26 11:15
面白いです。面白いと言っちゃいけないか。興味深いです。
現象、事実の学的裏付けを取ることは重要ですが私はこれが大の苦手。
ゆえに守屋先生や加茂先生に頼りっぱなし。いつもありがとうございます。
Commented by m_chiro at 2011-05-26 19:30
sansetu先生、興味を持っていただいて嬉しく思います。
こちらこそ先生のブログに啓発されたり、刺激を受けていて感謝です。
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