不安を与える脅しは痛みの改善につながらない
中年の婦人が担ぎ込まれて来た。待合室のソファーに倒れ込んで、間欠的に襲ってくる痛みに呻いている。専業農家の女性である。自力歩行が出来ないほどの激痛である。とにかく座位も立位も出来なくて、側臥位が比較的マシなようではあるが自発痛があり間欠的に激痛が襲う。

冬の間に屋根の雪降しなどで左の腰下肢に痛みがではじめたが、我慢をして仕事を続けているうちに頑固な痛みが続くようになったらしい。
それが朝目覚めた時に強い下肢痛が起こった。それでも出かける予定があったので、無理を押して車の運転をした。
用を済ませて帰宅したら更にズキズキと痛み出し、翌朝には間欠的な拍動性の痛みに襲われて身動きが取れなくなった。そんな経過である。

左下肢の皮膚に触れるだけでピリピリ痛むようである。こうした痛みは炎症性の徴候だろう。薬物での鎮痛が手っ取り早い。市内にペインクリニックがないので、病院の整形外科を受診するように勧めた。恐らくブロック注射をされるだろうが、その方が早く楽になるだろう。その旨を伝えた。

あるいは検査で椎間板ヘルニアと診断され、手術を勧められるかもしれない。手術をしなくてもきっと良くなるから、そこは慎重に対応するようにと話して病院に直行させた。

その日の夕方に、同行したご主人が報告にみえた。入院することになったと言う。

それから2カ月近く過ぎて、この患者さんが治療にみえた。跛行している。
診断はL5-S1間の椎間板ヘルニアだった。硬膜外ブロック注射で激痛は軽減し座れるようになったが、腰や左下肢の痛みは残った。MRIの検査で指摘された椎間板ヘルニアの手術を勧められたが、「農家は休んでいられない」と断ったらしい。
すると、「あなたの腰はガラスの腰だから、いつ何があってもおかしくない。再発したらその時に手術しましょう」ということになり、1週間でそのまま退院させられた。安静と通院を続けていたが、仕事ができるほどには回復しない。

「ガラスの腰」なんて、お医者さんも文学的表現をするものだ。
イメージ的にも脆さや危うさがダイレクトに印象付けられる表現である。
おかげで患者さんも恐る恐る安静を保って生活してきた。

左アキレス腱反射だけが消失している。殿部から大腿部、特にふくらはぎには顕著な圧痛があった。それらをリリースすると随分動きやすくなった。
こうした腰下肢痛患者は身体平衡バランス系も変調している。こうした平衡バランス系の調整も、徒手療法における痛み治療の重要な手法だと思っている。この平衡バランス系が再構築されることで、生体力学的修正が行われる。活動性を促す上でも重要な因子となるだろう。

治療の3日後に、用事のついでにと、ご夫婦で治療室に顔を覗かせた。
農繁期に入り忙しくなったが、「どうにか手伝いができるようになった」と夫婦で喜んで報告に来た。痛みがすべて解消したわけではないが、ともかく動き始めたことが回復への第一歩になる。

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治療は動ける状態を作ることであり、更に大事なことは痛みの情報を与えて「ガラスの腰」に対する恐怖心を払拭することだ。
治療後に動きの評価を行い、痛くない動きを確認させ恐れずに動くことを勧めるが、痛み出したら早めに対応する在宅での方法も教えておいた。

悪性ではない痛み患者に対しては、安心と活動性を与える治療が重要なのだと思う。

つづく
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by m_chiro | 2011-05-20 16:43 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
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Commented by シャルル at 2011-05-20 22:42 x
「ガラスの腰」は、私も言われたことがあります^^;
大事に大事にしなければと思わせられますね。しかも、痛くなっても、腰が弱いから。
治らなくっても、自分の腰が弱いからと納得させらてしまいます。

MPSという考え方に出会ったことで「痛い時があるから、ダメな腰」から「痛くない時があるから大丈夫な腰」への変化しました。
おかげで、今はそれなりに動けています。(メンテナンスは必要ですけれど)
Commented by m_chiro at 2011-05-21 18:30
え、シャルルさんも「ガラスの腰」と言われたんですか。。。。
私はまた随分しゃれた表現をする整形外科医だなぁ~、と思っていましたが、
脅し文句のマニュアルでもあるんかいな?、と疑いたくなりますね。

メンテナンスをしながらでも、一歩を踏み出させる前向きな気持ちがとても大事なように思います。
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