「痛み学」NOTE40.  関連痛と神経障害性の痛みをどう見分けるか
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

40.関連痛と神経障害性の痛みをどう見分けるか

「痛み学NOTE 36.嘘つきの痛み」
に述べたように、「小殿筋のTPが坐骨神経痛だと嘘をついている」とされている。これはMPS(筋筋膜性疼痛症候群)とされ、体性関連痛の範疇に入る病態である。

その体性関連痛のメカニズムとなると、機序は決して明らかとは言えない。筋膜痛や線維筋痛症のような筋肉に起因する病態には複雑な病態生理学があり、その研究解明は後れを取っているのが現状のようだ。

腰下肢痛はカイロプラクティックの臨床の現場でもよく見られる症状である。
厄介なことに、痛みを訴えている部位が必ずしも治療部位とは限らないことが多く、この問題は本当にややこしい。

かつて腰下肢痛と言えば、すなわち神経の圧迫や絞扼と相場が決まっていた。
つまりは「根性痛」とみなしていたのである。不思議なことに、圧迫された神経根部で「感覚神経だけが障害され運動神経には影響が及ばない」とされていることも、怪しいと思われるようになっていた。

それでも「後根神経節(DRG)の感受性は過敏である」を根拠に説明づけられている。しかし、どう考えても侵害部位から逆行性に痛みが伝達される仕組みは理解できない。だから根性痛は「異所性興奮」という神経障害モデルで説明せざるを得ない。

こうした神経障害に伴う痛みには中枢性と末梢性があり、病態生理学的には「5つの基本的機序」(「痛み学―臨床のためのテキスト」409頁)が提示されている。
それによると、①痛みに感受性のあるニューロンへの直接の刺激、②損傷された神経の自発発火、③、中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築、④内因性の疼痛抑制系の破綻、⑤交感神経依存性疼痛の5つで、この基本的機序が単独あるいは複合して痛覚伝導系が障害されて発症するとされている。

多様な発症機序ではあるが、症状には類似点があるようだ。
それは、次の3つの症状に要約されている。a)灼けつくような、突き刺すような痛み、b)発作性あるいは間欠性の痛み、c)感覚変容(触刺激に過敏、冷刺激に対する灼けつくような感覚、無感覚部痛)の3症状で、発汗過多、皮膚温の変化、萎縮性変化(爪、皮膚、筋、骨など萎縮)が見られることもある、とされている。

これらは病態時モデルを使った動物実験でも明らかである。
あるいは広作動域ニューロンから下肢痛として脳に投射された痛みということもあり得るだろう。広作動域ニューロンが感作あるいは反応性が亢進すると、非侵害性の刺激(温熱や触刺激)にも痛みが生じるようになる。これは、正常な組織への刺激でも痛みを誘発する病態を意味している。

そうなると神経障害性の痛みは、必ずしも痛み症状だけとは限らないとみるべきだろう。おそらく、異常な感覚の変容が伴うはずである。あるいは痛みは一過性の強力なもので、まもなく異常感覚や神経麻痺症状が起こるかもしれない。

そう考えると、純粋に末梢への痛みだけが訴えられているケースでは、関連痛を想定して治療対応することが賢明であろうと思う。関連痛と神経障害性疼痛とでは、圧倒的に筋・筋膜障害による関連痛が多いのである。このことは徒手療法の臨床現場で特に感じる。

それでも、時には神経障害性の痛みが紛れ込んでいることがある。それらは徒手療法に対する応答が治療後の変化としてみえにくい。ところが、こうした難知性の痛みには代償性の体性関連痛が混在しているケースがある。この混在した体性関連痛を上手にリリースすると、意味のある軽減として感ずることがある。しかし、背景にある神経原性の痛みは難治である。煎じ詰めて言えば、神経障害性疼痛には特徴的な痛みに加えて、「感覚変容」や交感神経反射症状が伴うと言ってもいい。

したがって、痛み単独の症状は「神経障害性疼痛」ではあり得ない、とみるべきだろう。トリガーポイントが特定できれば、関連痛であることはより確実になる。

ところが「感覚変容」と混乱しやすいのが「しびれ」感である。だから、「しびれ」を訴えられると悩まされる。でも上記の特徴に照らすと、患者さん自身が「しびれ」感を自覚している「異常感覚」なのか、それとも第三者からの皮膚刺激で認識できる「感覚の障害」なのか判別しやすい。第三者からの刺激により、感覚の消失あるいは過敏があれば「感覚変容」とみることができる。

神経障害性疼痛には代償性のMPSが混在することが多い。これもMPSに対応することで早期に症状の軽減が期待できるだろう。やっかいなことにMPSにも「しびれ感」や「麻痺」と思われる症状が附随することがあるからだ。明らかな神経障害は別にして、ここは筋・筋膜への対応を第一に取り組むべきである。
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by m_chiro | 2011-04-21 22:27 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
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Commented by bancyou1965 at 2011-04-22 08:02
>神経障害性疼痛には代償性のMPSが混在することが多い

守屋先生、ご教授ねがいたいのですが、この場合の神経障害とはヘルニアや脊柱管狭窄症などのことでしょうか?

それとも、長期間痛みが続いた後起こると言われている、歪んだ痛み系の神経系統を言うのでしょうか?

Commented by m_chiro at 2011-04-22 17:52
bancyou先生、記事にしてお返事としました。
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