発生学上の定説は覆るのか?
学会活動や業界でお世話になり、ご指導を頂いている荒木寛志先生から興味深い論文を紹介していただいた。

大阪大学大学院・生命機能研究科の近藤寿人教授らの研究報告で、英国王立医学院と米国コロンビア大学の研究グループと共同研究したものである。

この論文は「Tbx6に依存したSox2遺伝子の制御が、体軸幹細胞の神経系と中胚葉への発生運命を決める」というタイトルで、英科学誌「Nature」の電子版(2011Feb. 17;470(7344):394-398)に掲載された。

脊椎動物の発生は、受精直後の胚から神経系や骨、筋肉、内臓器官などの組織がそれぞれ別々の幹細胞から形成されるという発生学上の定説がある。
受精直後の胚は三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に分かれてから、組織や器官が形成されるとされている。
すなわち外胚葉からは神経と皮膚が、中胚葉からは骨と筋肉、結合組織などが、そして内胚葉からは肺や消化管、消化腺などが形成されるというものであるが、私もブログの記事で引用したことがある。当然、発生学の成書にもそう書かれている。今回の研究は、この定説が覆るような報告である。

近藤教授らの研究は、神経系と中胚葉はいずれも「体軸幹細胞」と呼ばれる共通の細胞から生まれ、その後に神経系や骨、筋肉に分化する、というのである。
そのことを、中胚葉の発生を促すTbx6遺伝子や神経系の発生を促すSox2遺伝子を働かなくさせたノックアウトマウスを使って、胴体部における発生のルートを明らかにしたのである。

これまで神経系(外胚葉)と骨・筋肉(中胚葉)は発生学的にルートが別とされていたものが、胴体部では「体軸幹細胞」という共通の細胞から発生することを明かしたことになる。
下手な説明よりも、近藤教授の資料の図を見た方が分かりやすい。

c0113928_1822214.jpg


体軸幹細胞が神経になるか筋肉や骨になるかは、Tbx6という転写を制御する遺伝子蛋白が細胞の分化のスイッチになっているというわけだ。

遺伝子の調節領域の中でスイッチが「ON」になる調節領域を「エンハンサー」と呼ぶそうで、この体軸幹細胞の神経系と中胚葉系(骨や筋肉)の発生のカギになるのがSox2遺伝子である。

ところが面白いことに、転写制御因子であるTbx6をノックアウトしたマウスでは、中胚葉領域でも本来できないはずの神経管が作られるのだそうである。
ということは、Tbx6はSox2遺伝子をOFFにする働きをしていることになる。

最近の発生学に関する研究では、どうも従来の定説に合わない研究が出てきたりして疑いを持たれていたそうなのだが、今回の研究報告は定説を覆しそうなものだそうだ。

こうした現象が高等動物の神経系の発生プロセスにすべて共通しているのかどうか、私にはよく分からない。

でも、最も驚いたことは三胚葉モデルの定説の由来についてであった。
それは1920~1930年代の両生類胚の研究に基づいているのだそうである。
当時の発生学のパイオニアたちはイマジネーションを大胆に駆使して作業仮説を立てていたそうで、その後継たちがパイオニアたちの発想を教条化して行った結果なのだと言うのである。

科学的手法の発達によって定説は見直され、あるいは覆されるのだろう。
[PR]
by m_chiro | 2011-04-11 18:24 | 雑記 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/16176068
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
<< 膝窩筋と膝痛 「体からのシグナル」(科学新聞社刊) >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索