「超思考」(北野武著)
北野武氏のフアンと言うわけではないが、本屋で氏の新刊本が目についた。「超思考」という書名の本である。「超思考」というのだから思索をめぐらした意見と言うよりは、身体に浸みついたものの見方や考え方を述べたものだろう。

多くの分野にそのマルチな才能を発揮している氏の、身体に浸みついている見方・考え方というのはどんなものだろうと関心を持って立ち読みをした。浸みついた見方とは、言わば「育ち」の問題で、そこには母親の「躾」が大きく影響していたのだろうと思えた。根底には、人としての矜持を持った生き方があるのだろう。

北野氏はTVで「家庭の医学」を扱った番組を持っているようだが、いたずらに不安心理を煽る番組のように思えて、私はあまり快くは感じていなかった。その北野氏が「医は仁術か、商売か」というテーマで意見を述べていた。これがなかなか面白い意見だった。
その要旨を以下に取り上げよう(北野氏の言葉を、そのままカギカッコにしている)。

「医療レベルの話で言えば、問題は二世にある」という切り口で始めている。
要するに、本当に医者が好きで医大に進んだのか疑問だ、ということである。
「単にいい暮らしがしたいだけ」で医者になる人が増えても医療レベルの問題は解決しない、ということのようだ。

この結論は手厳しい。どうしても「子供を医者にしたいなら、遺伝子組み換えをしてでも、子供を優秀な医者にするという覚悟がなきゃいけないのだ」、と勉強したくない子供を医者にしようとする親に「覚悟」を突き付けている。
「非人道的だ、なんて言わせない。医者は科学者なのだ。合理的に考えれば、医者みたいな職業がほとんど世襲になっている日本の状況はどう考えてもおかしい。馬鹿でもできる政治家とは話が違う」。

また、「医は仁術」も建前だろう、と言う。
いつの世もあくどい商売をした医者は居たはずで、「そんな医者が増えたら世は乱れる」から、「医は仁術でなくてはいけなかった」のだが、もちろん立派な医者はいつの世にもいる。
健康保険制度が確立すれば、病院の収入は安定する。「国が収入を保証してくれるようなものだから、こんな確実な商売はない」。そんなわけで「医療が投資の対象にもなる」。「医者が仕事の内容で尊敬されている」のかは疑問だと言う。

「いちばん喰いっぱぐれる心配がないのが老人医療」で、ここには医療ミスだのという訴訟の心配もない。医療レベルの低さは、こんな状況からもわかる。
「薬をバンバン出して、CTスキャンだのMRIだの撮りまくって、保険点数をどんどん稼いでも誰も文句を言わない。儲かって仕方がないから、みんなやりたがる」。
そこへいくと小児科や産婦人科は大変だ。昼夜関係なく呼び出される。「医療ミスをしなくたって、医療訴訟は起こされる」。それをニュースにされる。「何かあったら、すぐに親が怒鳴り込んでくる」。それでも「保険は平等だから収入には反映されない」。
「仕事が大変で儲からない商売が流行らなくなるのは当然なのだ。…昔の風刺漫画なら、宝石だの毛皮だので着飾ったよぼよぼの金持ちの老人に医者が群がっていて、その足元で赤ん坊が踏み潰されている絵を描くだろう」。

では、どうしたらいいのか。
能力さえあり、医者の仕事が好きであれば誰でも医者になれる環境を作ることで、そのために必要な改革案は次のことだと言う。
そうすれば、医療や医者のレベルの向上、無医村や医者不足の改善、医者を目指す若者の動機も改善などができるだろう、というわけで以下の改革案を提示している。

1.国立大学の医学部の定員を百倍くらいに増やす。
2.授業料は無料にする。場合によったら全寮制、生活費一切の面倒をみる。
3.その国立大学医学部を卒業した医者は、全員国家公務員にする。
4.国営の診療所や病院をどんどん作って、そこへ送り込む。
5.経営は国営病院全体で成り立たせる。
6.給料は、普通の公務員よりちょっと多いくらいでいい。
7.十年、二十年、国立の病院に勤めたら、その後はフリーエージェント制にして私立の病院に行くことも、開業することもできる。


キューバという社会主義国は日本の本州の半分ほどの狭い国土に千百万人の人口があり、GDPは9500ドル/1人だそうだ。が、国民も外国人旅行者も医療費は全て無料、高度先進医療もすべて無料で、国民一人当たりの医師の数は日本の3倍、診療所も集落の1キロ以内に作ることが法律で定められているのだそうだ。北野氏の提案はこのキューバモデルを意識しての意見だろうと思われるが、いいアイデアだと思う。

他にも、死刑の是非、老後の問題、価値について、師弟関係、芸術論、人知の及ぶ範囲、などなど18考について語られている。

共感すべき意見が多くあり、胸のすく語り口で、購入して読んだ。
読後、「拍手!」だった。
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by m_chiro | 2011-03-31 17:24 | Books | Trackback | Comments(0)
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