根性痛とみるか、関連痛とみるか。
「神経が圧迫されている」とされた頸肩腕痛から

2ヶ月ほど前に右首すじが痛くなった中高年の男性は、寝違いでもなったのだろうと思ったらしい。他に思い当たる原因もなかったようである。
ところが徐々に痛みが広がり、首も動かせなくなってきた。
2週間も過ぎて、今度は左の上腕にも痛みが出るようになり、腕も「しびれる」ようになって整形外科医院を受診した。
X-rayで頚椎の下部で椎間板が薄くなっていることが分かった。「そこで神経が圧迫されている」と診断されて、鎮痛剤が処方され物療が続けられた。

初発から1ヶ月を過ぎても症状は悪化するばかりだ、と治療にみえた。
頚部を側屈させても、回旋させても、伸展側屈、前屈左回旋させても、全て左への動きで左上腕部に関連痛が起こる。だから寝返りも辛い。デスクワークも辛くなっている。
肩レベルは左が下方にある右肩上がりである。頭部も左に傾斜している。
斜角筋に左上腕に関連するTPがある。ジャンプ徴候の圧痛も斜角筋停止部や肩甲下筋、棘上筋にある。

それらをリリースすると苦もなく寝返りができるようになった。首の可動域も大きくなり、最終可動域で左上腕に僅かな関連痛が起こった。
3回目の治療で「しびれ感」も消えた。ほとんど関連痛も出なくなった。
これが「神経が圧迫された」症状ではないことは明らかである。

いったい根性痛のような「神経障害性疼痛」と「MPS(筋・筋膜疼痛症候群)」のような体性関連痛の痛みをどう見分けたらいいのだろう。
神経障害に伴う痛みには中枢性と末梢性があり、病態生理学的には「5つの基本的機序」(「痛み学―臨床のためのテキスト」409頁)が提示されている。
それによると、

① 痛みに感受性のあるニューロンへの直接の刺激
② 損傷された神経の自発発火
③ 中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築
④ 内因性の疼痛抑制系の破綻
⑤ 交感神経依存性疼痛


の5つで、この基本的機序が単独あるいは複合して痛覚伝導系が障害されて発症するとされている。
多様な発症機序ではあるが、症状には類似点があるようだ。
それは、次の3つの症状に要約されている。

a) 灼けつくような、突き刺すような痛み、
b) 発作性あるいは間欠性の痛み、
c) 感覚変容(触刺激に過敏、冷刺激に対する灼けつくような感覚、無感覚部痛)


の3症状である。
加えて、発汗過多、皮膚温の変化、萎縮性変化(爪、皮膚、筋、骨など萎縮)が見られることもあるとされている。

煎じ詰めて言えば、根性痛とされる神経障害性疼痛には、特徴的な痛みに加えて「感覚変容」や交感神経反射症状が伴うと言ってもいい。したがって、痛み単独の症状は「神経障害性疼痛」ではあり得ない、と診るべきだろう。TPが特定できれば、MPSであることはより確実になる。

ところが「感覚変容」と混乱しやすいのが「しびれ」感である。
だから、「しびれ」を訴えられると悩まされる。でも上記の特徴に照らすと、患者さん自身が「しびれ」感を自覚している「異常感覚」なのか、それとも第三者からの皮膚刺激で認識できる「感覚の障害」なのか判別しやすい。第三者からの刺激により、感覚の消失あるいは過敏があれば「感覚変容」と診ることができる。

また、神経障害性疼痛には代償性のMPSが混在することが多く、MPSに対応すると早期に症状の軽減が期待できる。MPSにも「しびれ感」や「麻痺」と思われる症状が附随することがあるからだ。明らかな神経障害は別にして、ここは筋・筋膜への対応を第一に考える方が賢明だろう。
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by m_chiro | 2011-03-24 17:58 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
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