「痛み学」NOTE39. 関連痛のメカニズム;「末梢説」と「中枢説」
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

39. 関連痛のメカニズム;「末梢説」と「中枢説」


「関連痛」の概念は、Martynが「炎症性疼痛における生理学的意味について」で論じた1864年の論文に始まるとされている。障害部位から離れたところにも現れる痛みの存在であった。

1893年には、H.Headが内臓疾患における関連痛として「ヘッド帯」なるものを学位論文として発表した。その中で、内臓疾患の関連痛は皮膚節(デルマトーム)に現れるとしている。

また、生食を筋肉に注入すると、注入部位だけでなく離れた部位に痛みが放散することを明らかにしたのはT.Lewisだった(1938)。同じ手法で高張食塩水を注入して、関連痛は筋肉などの組織の過敏点から生じるとしたのはJ.H.Kellgrenである。この体性からの関連痛は、局所麻酔で治まることを両者が報告している。
こうした関連痛の歴史的背景については、小山なつ著「痛みと鎮痛の基礎知識」上・下巻に詳しい。

関連痛のメカニズムとしては諸説ある。
大別すると、末梢神経における機序にその根拠を求めた「末梢説」と、中枢神経での機序に求めた「中枢説」に分けられる。

例えば、腹筋下部のTPは、虫垂炎の関連痛のように嘘をつく。虫垂炎で最初に出る痛みは、実際に内臓からの痛みである。ここからの痛み信号が脊髄に送られると後根反射が起こるとする。このインパルスが末梢に逆行して化学物質を放出し、周辺組織の皮膚や皮下組織に関連痛をつくり出す。これが「末梢説」の代表的な仮説・Morleyの「腸膜皮膚反射説」(1931)である。

しかし、後根反射が起こるとするエビデンスは存在しない。痛み刺激が脊髄に送られたからといって、後根反射は起こり得ないのである。したがって、この仮説は怪しい。

中枢神経系に関連痛の根拠を求めた「中枢説」で、よく知られているのはRuchの「収束-投射説」(1947)である。「収束-投射(projection)説」は、脊髄における痛覚伝道路である二次ニューロンに内臓からの痛覚一次ニューロンと、皮膚からの痛覚一次ニューロンが収束しているために関連痛が起こる、とする説である。

皮膚はヒトの身体と外界との境界をなしている。そのために皮膚は多くの刺激を感受しているし情報網も多い。したがって、脳は皮膚からの情報を優位に結びつけやすいのだろう。ヒトの持つ学習能の所作なのかもしれない。
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”Principles of Neural Science”4th Edition. 471Pより転載

そもそも内臓疾患からの関連痛を、最初に脊髄における「収束説」で説明したのはMackenzieの「収束―促通(facilitation)説」(1893)だった。
「促通」とは、「2つの刺激が組み合わさると、単独での刺激の効果よりも大きな効果が起こる現象」を指している。

Mackenzieは、なぜ「投射」ではなく「促通」説を持ち出したのだろう。
彼は、内臓からの痛み症状となるインパルスは脊髄視床路ニューロンに接続されていない、と見ていたからである。今となっては、既に、この時点で誤りであったことになる。
それ故にMackenzieは、内臓疾患による求心性インパルスが脊髄分節で収束されて「過敏性焦点」が作られるという推論を構築したのである。
これで皮膚への関連痛に見られる痛覚過敏の病態が説明可能となった。

Mackenzieの仮説では、関連痛そのもののメカニズムを説明しきれなかったが、それでも「過敏性焦点」を想定し、更には「軸策反射説」を導入して、関連領域の痛覚過敏や炎症のメカニズムを説明することに貢献したと言えるだろう。

一方、Ruchの「収束―投射説」では、末梢での痛覚過敏や浮腫を説明することができなかった。
この疑問を穴埋めしたのが、「過敏焦点」や「軸策反射」という病態機序だったということになる。

こうして見ていくと、発表されてきた関連痛のメカニズムは、内臓疾患からの関連痛を前提として構築されているように思える。
どう見ても、筋・筋膜TPがつくる関連痛の説明には成り得ていないからである。
したがって関連痛のメカニズムは、内臓性と体性からの関連痛のメカニズムとは別に考える必要がある。

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by m_chiro | 2011-02-22 22:33 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
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