微細な皮膚刺激に、どうして鎮痛効果が期待できるのだろう?
「ソマセプト」、「ソマレゾン」による微細な皮膚刺激が、なぜ鎮痛作用に影響を及ぼすのだろう。
1個のソマセプトにはマイクロコーンの突起が376本あり(硬度108)、高さが150μm(0.15mm)とある。だいたい表皮の厚さが0.06~0.2mmとされているから、どう考えても表皮を超える圧力が加わるとも思えない。だから、部位によっては表皮だけの微細な刺激ということになる。
実際に貼っても、刺激感はほとんど感じない。この356本のマイクロコーンがどういう刺激を伝えているのだろう。自覚できる感覚としては、極めて微細な触圧覚と言えるだろうか。

皮膚感覚には4種類があるとされている。
触覚、温覚、冷覚、痛覚の4種で、皮膚にある受容器と対応する。
触覚は、毛根終末とメルケルの触円板とパチニ小体が対応している。パチニ小体では触覚と同一種である圧覚にも対応している。
そして温覚はルフィニ小体、冷覚はクラウゼ小体、痛覚は自由神経終末である。
ところが面白いことに、これらの受容器には相互の移行もあり、一つの受容器に2本以上の神経線維の多重支配もある。

皮膚にある受容器と言っても、ほとんどが表皮下にある。この表皮下の受容器と、触刺激が入力される皮膚表面との間隙を伝達する仕組みが、近年研究されている。表皮の「ケラチノサイト細胞」の感覚受容器としての役割と、その情報網としての役割の研究である。
ケラチノサイトの研究者である傳田光洋Ph.Dの著作に、以下の記述がある。表皮細胞の役割が分かりやすくまとめてあるので、長文をそのまま引用する。

皮膚表面を形成する表皮ケラチノサイトは様々な「感覚器」を備えた優れたセンサーです。ここに外からの刺激が加わると、これまた多種多様な信号が発信され、神経末梢や内分泌系に作用します。最表面の表皮細胞が、乾燥や圧力、浸透圧、紫外線、酸、などの刺激を受けると、細胞内カルシュームの濃度が上昇します。このとき細胞膜電位も変化し、一方、既に述べてきたようにサイトカインやATPなどの情報伝達物質を出します。細胞膜電位の変化は隣の細胞の膜電位感受性受容体に感受され、後はドミノ式に電気的変化が表皮内に伝わり、やがて神経末梢に到達し、それを刺激するでしょう。表皮で放出されたサイトカインやATPは真皮まで拡散することが知られています。ということは、これらの物質は末梢神経や末梢血管に作用するでしょう。さらにサイトカインが免疫細胞を呼び寄せて刺激したり、あるいは真皮内のマスト細胞を刺激するとさらなるサイトカインの放出やヒスタミンの放出が起きます。それがまた神経や血管拡張を引き起こし、二次、三次の反応を起こしています。(「賢い皮膚」ちくま新書795、147頁)

どうも表皮細胞の役割は多様で、しかも外部刺激に柔軟に対応する「複雑精妙な装置」になっているようだ。さて、この表皮にソマセプトを貼付すると、その部位の圧痛にどのような変化が起こるのだろうか。

簡単に考えれば、その部位の細胞での電位変化によって興奮が治まることだろう。
電位変化を起こすには、何もソマセプトである必要はない。
身近なツールでは、適当量のアルミホイルを丸めて圧迫し、それを痛みの部位に貼付しても可能である。あるいは一円硬貨でも十円硬貨でも可能だろう。だから痛みに一円玉療法がブームになったりする。

または、体性自律神経反射を引き出す作用によって血流が変化したのかもしれない。
あるいは「痛いの痛いの飛んでけぇ~」の機序とされた「ゲートコントロール説」が持ち出されるかもしれない。この説は後角での抑制細胞が仮定されていたが、実際にはその抑制細胞が同定出来ないことが分かり破綻している。それでも現象としては存在しており、そのゲートコントロール説に変わる仮説が模索されている。プラシーボ説もその一つだろう。

私としては、こんなことを考えている。
脳の情報処理の仕方に基づいた考えであるが、これらは幾多の啓発をいただいた故・松本元先生の研究に学んだものである。

例えば微細な触圧刺激であるソマセプトの刺激は、その刺激部位である皮膚の局在をかなり正確に大脳皮質が識別する。
その刺激部位が識別されると、脳のメモリー主体型方式に基づいて、その答えを引き出すためにルックアップ・テーブルに照合し、答えが検索される。脳が答えを引き出すか否かの判断は、意味概念を素早く理解し、入力情報に関する「価値」の判定が行われ、「認知」される必要がある。脳からの出力は価値有りの判定で認知された結果である。
価値無しの判定からは出力が起こらない。出力なきものは学習されない。学習されないものは、アルゴリズムの書き換えにも寄与しない。

価値判断の結果として出力された答えのアルゴリズムはそのまま、あるいは書き換えられて記憶(メモリー)の貯蔵機構であるアーキテクチャーにとどまる。こうして脳は自ら情報処理のプログラミングを行っている。

出力が起こるまでの時間は、最も適応するアルゴリズムを検索する時間でもある。
後は脳が自ら獲得した情報処理のプログラムにしたがってアルゴリズムに基づいて処理されるだけである。

だからこそ、私は貼付後に痛みが起こった動作(出力)を反復させている。
効果的なケースがあり効果が無いケースがあるのは、ひとえに脳が価値判断と認知を行ったか否かにかかっている。その意味では、治療効果は刺激の種類や強弱あるいは手法によるのではなく、脳のアーキテクチャーのルックアップ・テーブルから答えを導くプロセスを踏んだか否かにあるのだろう。刺さない鍼が効くのも、刺す刺さないにあるのではなく、どんな刺激でも脳の情報処理(問題処理)のプログラムを作動させたか否かなのだろう。

コンピュータには事前のプログラムが入力されていなければ目的を達成できない。だからプログラムの入力は、コンピュータが目的を追行する手段として欠かせないプロセスである。
しかし、脳は自らプログラミングすることを目的としているのである。そのためには、情報を得るという手段が必要である。脳とコンピュータでは、その目的と手段が入れ替わっていることになる。治療は、脳への情報の入力なのだろう。出力は行動(動き;筋の作用)として現れる。その出力が、また入力としてフィードバックされる。こうしてアルゴリズムが書き変わる。
痛みの可塑性もこうして生まれる。不快な強い痛みは認知され、強固なメモリーとして貯蔵され、歪んだ痛みとして出力されるのだろう。

治療における刺激も一つの手段であって、それは自らプログラミングするという目的を獲得する行為なのだろうと思う。
そうなると、ソマセプトもその一つの手段として、脳のアーキテクチャーへの照合・検索機能に作用され、価値が認知されれば身体の変化としての出力が起こるのではなかろうかと思う。
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by m_chiro | 2011-02-03 12:42 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
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