関連痛は謎だらけ④ 
④ 関連痛に痛覚過敏がなぜ起こる

関連痛は謎だらけ①で触れた患者さんは仰臥位でも腹臥位もとれず、唯一の寛解安静位は患部を上にして大腿部にクッションを入れた側臥位だった。
それでも大転子周辺は少し痛苦しいと言う。

小殿筋TPとの鑑別を要する疾患に、「転子包炎」があげられている。
股関節屈曲位での側臥位をとると、別の過敏点が滑液包上に引き出されることで見分けられるとされているが、そのような気配はない。

ただ、殿部や大腿外側部に手掌を乗せると広い範囲に痛みが広がる。過敏状態である。
手掌で触れた程度の触・圧覚の受容器支配は、非侵害受容器である。だから健常であれば通常は痛むはずがない。

それでも痛みが放散するように広がるのは痛覚過敏である。アロデニア状態か、もしくは触れた部位の皮下組織にも病変があるのかもしれない。
痛みは侵害受容器の興奮によって起こるという考えが通らない。
そんな病態が関連痛には見られるようだ。
炎症所見が見られない痛覚過敏は不思議でもある。
いったい、どのようにして起こるのだろう。

こうした痛覚過敏には静的過敏と動的過敏があるとされている。
要するに触れた手を止めていたか、あるいは動かしたかでわけられる。
私は触診で浅筋膜の動きを見るので、この患者さんのケースは主に動的痛覚過敏と見ていいのだろうと思う。

静的痛覚過敏は傷害部位に限局した痛みがみられ、侵害受容器の閾値が低下して感受性が亢進したことに起因している。
一方、動的痛覚過敏は広作動域ニューロン(wide dynamic range:WDR)の感受性亢進によるものとされている。

脊髄後角には6層の区分けがあり、そこに入力する侵害受容ニューロンには2種類ある。
ひとつは「広作動域ニューロン:WDR」で、もうひとつは特異的侵害受容ニューロ(nocieptive high threshold:HT)である。
「特異的侵害受容ニューロン:HT」は、侵害刺激だけを特異的に受容するもので、後角の1層と2層の外側にある。
WDRは1~2層、4~6層にあって、触覚刺激、圧覚刺激(痛みを生じない非侵害刺激)から痛みを生じる侵害刺激まで、幅広いさまざまな刺激の入力を受けている。

WDRの感受性が高まっていると(ワインドアップ現象)、末梢での触刺激などの非侵害性の刺激に対しても(Aβ線維からの入力に対しても)、痛みインパルスが中枢へ送られるということになる。

また不思議なことに、今回のケースでも浅筋膜を全方向に動かして、痛みが生じない方向でホールドしながらリリースしていくと、体表に現れている関連痛や痺れなどの異常感覚は割合早期に解消された。ところが深部にある活性TPがあると、これはなかなか完治しにくい。

よくよく考えると、筋膜をリリースして解消される痛覚過敏は、本当にWDRに反映されたものか疑問が残る。
それとも単純に、筋TP活性によって浅筋膜組織の侵害受容器の閾値が低下しただけなのか、それも謎のままである。
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by m_chiro | 2011-01-21 23:38 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
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Commented by sansetu at 2011-01-22 16:29
だいぶ前に、まだアロディニアなんて言葉も知らない頃、痛覚過敏の患者さんが担ぎ込まれ、当時の学習不足の私には何もできませんでした。
結局その方は郷里に帰られ入院して時間経過の中で自然寛解したようでした。
形としては極めてストレスフルな環境から転地療養した形となったのですが、それも脳に効いたと思います。時に思いきった環境転換により症状が変化しますね。
今ならもう少しましな対応ができるかなと、いつも自問しています。
せめて心の不安を取り除いて上げられればよかったと思います。
その為にはやはり安心させて上げられるだけの知識が必要なんですね。
気休めや励ましではなく、知識なんですね。それも学術の受け売りだけではなく、やはり自分の経験の中で掴んだ法則こそが説得力を持って人の心に入って行きますね。
あと、自発痛ですが、重力の介入は大きいですね。重力に対する筋支持はアイソメトリック収縮になっていますから、動作痛という言葉では不適当ですが、「筋活動痛」であることに違いはないわけです。
Commented by m_chiro at 2011-01-23 16:30
sansetu先生、ご指摘の「重力」の介入はとても重要な要因だろうと思います。特に、重力場における姿勢の制御や動的平衡をコントロールしている神経反射に注目して、この生得的プログラムのイレギュラーな反応を再起動させることをテーマのひとつにもしております。
そんなわけで、私は立位での痛みも「動作痛」として受け取っていました。
要するに、重力に対応して立位になる動作で痛みが出るのだから、これは動作痛だと評価していたわけです。
確かに「筋活動痛」という表現の方が適切かもしれませんね。
有難うございました。
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