関連痛のメカニズムは謎だらけ①
① 関連痛はなぜ遅れてやってくるのだろう?

昨年末、年の瀬も押し迫って、左の腰下肢痛で歩行のままならない男性の患者さんがみえた。
左股関節部を前に突き出して、やっとこさ横歩きでステッキをついてやってきた。
何でも、冬支度や正月の準備で忙しく働いているうちに左の股関節周囲が痛み出し、やがては下肢痛も加わり跛行するようになったようだ。
腰殿部から大腿後外側へ、更に前脛骨筋部から足関節部にかけて、痛みと痺れ感を訴えている。
仰臥位や腹臥位は、痛みが強く出来ない。患部を上にした側臥位で診る他なかった。
殿部に軽く手を添えただけでも、大腿から前脛骨筋部に関連痛が起こる。過敏状態である。睡眠も妨げられている。

小殿筋TP(トリガーポイント)のパターン通りの痛みであるが、殿筋一帯にジャンプ兆候とTPが沢山ある。
この患者さんは越年してやっと良い状態になったが、関連痛を考える上でも参考になった。

関連痛とは、障害部位から離れた健常部位にも現れる痛みのことである。
その機序についても諸説あり、未だ決定的な仮説が見当たらない。謎だらけの痛みである。

Travell&Simonsの「トリガーポイント・マニュアル」に記載されている小殿筋TPは、概ね次の点で特徴的である。

1. 小殿筋TPは「坐骨神経痛の成り済まし筋」として知られている。だから根性痛として診断されることが多い。
2. 小殿筋TPの関連痛は耐えられないほど持続し、そして非常に激しいものがある。
3.関連痛の範囲も一般的には足首までで、足首を超えるケースは稀である。
4.痛みを鎮静化する歩行をとる。そのため段階的な跛行あるいはステッキを用いての歩行と成らざるを得ない。
5.小殿筋は殿筋の中でも最深層の筋で、その前方部は大腿筋膜張筋と中殿筋が三層に重なり合い、後方部では中殿筋と大殿筋の三層で構成されている。
6.痛みの関連区域に痛覚の変化や感覚異常または麻痺が診られることもある。
7.小殿筋の活性TPが単一の症候群として現れることはほとんどなく、梨状筋、中殿筋、外側広筋、長腓骨筋、腰方形筋、時に大殿筋と関連してことが非常に多い。

今回の症例は、小殿筋TPのマニュアル通りの態を示していた。

さて、ここでの謎のひとつは、なぜ関連痛が遅れてはじまるのか、ということにある。
関連痛のメカニズムで広く知られている仮説は、Ruchの「収束―投射説」である。脊髄後角に収束する同一のニューロンが存在しなければ成り立たない仮説である。近年、こうした収束するニューロンが脊髄だけでなく、より上位の痛覚伝導路にも、また一次ニューロンにも収束するニューロンが見つかっているのだそうだ。と言うことは、どの神経レベルでも収束現象が起こりえる、と言うことなのだろう。

次の図は、皮膚からと内臓からの感覚神経が後角に収束していることを示している。

c0113928_131494.jpg

     ”Principles of Neural Science”4th Edition. 471Pより転載

皮膚は身体内部と外界の境界をなしている。したがって、常態的に情報のやり取りが行われている。一方、内臓からの情報は皮膚と違って明確な定位はない。
だから、脳は内臓からの痛み情報を皮膚から入力と勘違いして投射する、というのがRuchの収束―投射説である。
でも、なぜ障害部位から遅れて関連痛が起こるのか、というのは謎である。
「収束―投射説」では、この遅れを説明できない。
だから関連痛の仮説は、筋・筋膜疼痛症候群(MPS)の説明にはならない。

(続く)
[PR]
by m_chiro | 2011-01-12 13:22 | 痛み考 | Trackback | Comments(6)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/15754239
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by syaruruk at 2011-01-12 17:18
関連痛は、遅れてやってくる。まさに、その通りなんです。
整形外科の腰痛のページにも書いてありました。
「腰痛が起きてそれが治ったころに下肢痛が起きたらヘルニアである」(笑)
ああー。私のヘルニア手術のときもそのような経過でした。強烈な腰痛、遅れてくる下肢痛。でも、何故かなー。
Commented at 2011-01-12 23:21
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by m_chiro at 2011-01-13 17:33
syarurukさん、どうも関連痛は神経学的な仮説には合わないことが多すぎますね。
やはり、「内臓ー体性反射」をベースにしているからでしょうか。
筋痛レベルでの研究が進まないと、本当の機序が見えにくいように思います。
Commented by m_chiro at 2011-01-13 17:35
鍵コメ様、ご指摘ありがとうございました。
坐骨神経痛の件も、後でまとめてみようと思います。
Commented by タク at 2011-01-19 00:05 x
不思議ですね。関連痛。

例えば、歯痛のTPで問題となる、咬筋、外側・内側翼突筋は三叉神経支配。下顎神経。
脊髄後角は問題外。

>より上位の痛覚伝導路でないと…。
そうですね。と言うことで、、、

だから、脳の勘違いと言うところでしょうか。



トリガーポイントマニュアル
Google ブックス P167 小殿筋
http://books.google.co.jp/books?id=bXSBY3iJK-0C&pg=PA181&source=gbs_toc_r&cad=4#v=onepage&q&f=false
Commented by m_chiro at 2011-01-19 15:01
タクさん、こんにちは。
いつも貴重な情報に感謝しております。
トリガーポイントマニュアルはGoogleブックスでも読めるんですね。

関連痛は確かに脳の勘違いですね。
でも、なぜ勘違いするのかが分かると、対処も見えてきそうに思っています。
以前、「脳が勘違いする痛み」(http://mchiro.exblog.jp/14235845/)で取り上げた下の記事でもそのことがよく理化できました。
歯痛の謎:「脳は場所を特定できない」2010年4月22日
http://wiredvision.jp/news/201004/2010042222.html

これからもいろいろ教えてください。
<< 関連痛は謎だらけ② 連日の大寒波にノックアウトです >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索