末梢神経幹の圧迫痛は、あり得るのか?
末梢神経の周膜と上膜にも侵害受容器が存在することが明らかになってきた。
それは、軸索から周膜と上膜に枝を伸ばした「神経の神経(nervi nervorum)」の終末に存在する。
この侵害受容器は1963年頃から論文に登場するようになり、1995年にBoveとLightが免疫・組織化学マーカーを活用して組織学的に明らかにしている。

このことはJ.P.Barral著「末梢神経マニピュレーション」(2010年、科学新聞社刊)に記載されているが、実際、その役割の詳細は謎でもある。
ただし機械的刺激では、圧迫よりも伸長される刺激に敏感に反応するようである。

さて、この「神経の神経」の侵害受容器の存在が、末梢神経の圧迫痛の根拠にされるようになった。確かに、侵害受容器が存在するのであるから、神経幹の圧迫は「痛む」と考えるのは常套であろう。

しかし、侵害受容器はセンサーではない。だから「閾」がある。
その「閾」も一様ではない。個体差もある。その設定をどこが行うのか、それもまた謎である。
同じ受容器でも固有受容器とは意味合いが違うのである。

最近の研究では、非常に高い「閾」を持つ侵害受容器の存在も明らかにされているようだ。
これらは「silent(sleeping) nociceptors;沈黙の(眠れる)侵害受容器」と呼ばれており、通常は化学感受性で機械的刺激には非感受性という特徴がある。

そう考えると、「神経の神経」の侵害受容器が常態時にはサイレントな受容器であってもおかしくはない。
むしろ、そう見た方が生体における反応との喰い違いを納得できる。

それに侵害受容感覚(nociception)は「痛み症状」ではない。
「痛み症状」とは、侵害受容感覚によって起こり得るひとつの結果なのである。
あくまでも推測に過ぎないが、この末梢神経上膜の侵害受容器は、末梢神経が損傷した時に、例えば末梢神経が限界域を超えて引き延ばされたりすることで、神経に損傷が起こると作動するのではないかと思える。
そうなると、当然、化学的要因も発生する。
だから、周膜や上膜の侵害受容器は神経損傷に伴って作動する受容器ではないだろうか、と思う。

末梢神経幹を圧迫しただけで一々「痛み症状」が起こったのでは、スポーツも格闘技も成り立たないし、日常生活にも支障が起こるだろう。
ましてや徒手療法は治すよりも傷める手法になりかねない。
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by m_chiro | 2010-12-14 17:34 | 痛み考 | Trackback(2) | Comments(8)
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Tracked from 漢のブログ at 2010-12-14 20:43
タイトル : また勉強になりました。
末梢神経幹の圧迫痛は、あり得るのか? 痛み学臨床のためのテキスト P17 中ほどに侵害受容器は抹消神経周膜に存在するとある。 ここを読んで、ふと神経を押さえつけると痛みが起こるのではないかと疑問が湧いたので、厚かましくも、尊敬するm_chiro先生にお尋ねしたところ、ブログ「脳‐身体‐心」の治療室で記事にしてくださったので、トラックバックさせていただきました。 記事の中にある神経の神経について、同じくm_chiro先生のブログに記事があるので、あわせて紹介させていただきます...... more
Tracked from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床 at 2010-12-16 09:34
タイトル : 末梢神経の周膜と上膜にも侵害受容器が存在することが明らか..
末梢神経幹の圧迫痛は、あり得るのか? 痛み治療をしている治療家には重要な記事です。 これからは患者さんに説明する時も、 やや内容を変える必要があります。 あまり省略するとそれを伝え聞いた「よく勉強している医師」に、 「その鍼灸師の説明は間違っています」と指摘され、 患者さんの信頼を失うことになるやもしれません。 この↑記事の中で重要なところは、 侵害受容器=痛みではない、というところです。 それと侵害受容器というものには正常な状態にて、 自然身体の設計に於ける閾値設定の差が...... more
Commented by 一力 at 2010-12-14 19:58 x
この考え、賛成です。
ずっと思っていました。
臨床ではトリガー理論だけで説明できない症状(直接神経が関与しているとしか思えないような)に遭遇することがあります。
Commented by シャルル at 2010-12-14 22:06 x
昨日ぎっくり腰状態になって・・・。
今日は、神経根ブロックを受けてきました。その直後から、かなりの痛みが軽減されて体の動きもよくなりました。根ブロックといっても、神経に突き刺すのではなく「神経の周囲に麻酔薬を流す」というものですが。。。
麻酔薬の流れたあたりには、受容器があるということですね。
Commented at 2010-12-15 09:53
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by m_chiro at 2010-12-15 16:38
一力様、関連痛の問題は難しいですね。なかなかコレという理論にお目にかかれません。TPや関連痛のパターンのマニュアル通りでないものにもよく出会います。ポリモーダル受容器のネットワークのシステム系が明らかになると、もう少し整理できそうですが。。。。
Commented by sansetu at 2010-12-15 16:43
勉強になります。
これ、ちゃんと知っておかないと、ヘルニアや脊柱管狭窄手術派の整形医に「神経の表面にも侵害受容器はある」と言われたら言い返せませんからね~(笑)。
でも、かかとの神経は床をダンダン踏んでも大して痛くないし、仰るように格闘技では
掌打や肘打ち・膝蹴りは大して痛くありません。もっとも打撲して炎症を起こしたり、過敏プログラムが発動して閾値が低くなっている時は別ですが、でもそれは手術で解決するような機序ではなく、やはり炎症やプログラム自体を鎮静化することで解決することだと思います。
Commented by m_chiro at 2010-12-15 16:44
シャルルさん、上手にブロックするドクターに出会えてよかったですね。
いつも体調を気にかけておりましたが、忙しくお働きのようで何よりと思っていました。お疲れでも出たのでしょうか。

神経学や痛み学の情報が目まぐるしくなって、何が何だか分からなくなります。臨床で体感したものと「すり合わせ」ながら推測する作業ばかりです。
Commented by m_chiro at 2010-12-15 16:53
sansetu先生、次のコメント同感です。

>手術で解決するような機序ではなく、炎症やプログラム自体を鎮静化することで解決する

徒手療法にとっては、「プログラム自体の鎮静化」を如何に実現させるかに尽きるように思います。
Commented by m_chiro at 2010-12-15 16:59
鍵コメ様、そういうことになるのでしょうか。
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