マニピュレーションを正しく教育する責任の所在はどこにあるか?
「カイロもどき病」で紹介した患者さんがみえた。
1週間間隔で1か月ほど治療し、随分調子を取り戻した。
頭痛や吐き気も消え、時に首の痛みが残る程度に回復した。食欲も出てきて体重も大分戻したようである。
この患者さん、過剰な頸椎の関節マニピュレーションの被害者である。
ハイパー・モビリティが完治したわけではないが、過剰な刺激の入力が無くなっただけでも良い方向に向かったものと思う。
関節マニピュレーションを行う者は、その原理原則論を踏まえて熟練した操作を行なわなければならない。同時に、その教育の重要性については改めて言うまでもないことである。

さて、最近のカイロプラクティック業界でチョッとした議論が賑わしかった。
WFC(世界カイロプラクティック連合の略称)が承認するカイロプラクター以外の者に、関節や軟部組織のアジャストメントおよびモビリゼーションを教えてはならいらない、という声明が日本のセミナー主催者(科学新聞社)側に行使されたことである。

よく事情が飲み込めないでいた私は、WFCが所属メンバーに紐を付けるというのであれば、止むを得ない話ではないかと思っていた。が、どうも事はそんなに単純ではないようである。何しろ、日本のカイロプラクティックをどうするのか、という基本的な問題含みのようなのだ。

そんな折に、科学新聞社が発行する「カイロジャーナル69号」が届いた。
櫻井京D.C.が、「論壇」というコラムに「日本の多数派を切り捨てWFC声明に沿うのは難しい」と題する論説を述べておられた。
この記事を読んで、鈍重な私にもようやく背景が理解できた。
更に20ページの新聞記事の随所に、日本のカイロプラクティックを考える意見や、世界のカイロ界の動向までもが織り込まれていて面白かった。

WFCとは、世界90ヶ国のカイロプラクティックの業界団体が参加する国際的な非政府組織(NGO)である。そしてカイロプラクティックの団体としては、唯一、NGOとして世界保健機関(WHO)の会合にオブザーバーとしての参加が認められている。
このWFCの目的は、科学的研究、教育、法制化で、各国が情報交換を行いカイロの基準や職業としてのアイデンティティを守ること、としている。
ところでWFCに所属する日本のカイロ団体は「JAC」である。一国から一団体の加盟という制約があるのだ。だから、JACは重い責任を背負っている。
そして、WFCに参加する約90カ国中、カイロプラクティックの法制度化された国は34カ国のようである。

法制度化されていない国では、それまでの間の移行措置としての教育が求められている。そのためにWFC代表団体(日本ではJAC)に特別な権限が明記され、その国におけるカイロ教育プログラムの設定および承認が委ねられている。
その他に、「関節アジャストメント・コース」については「正規のカイロプラクターと学生のみに教えるべきであり、違法行為には、代表団体および関係者が全力で立ち向かうべきである」と声明が出されている。

これって、法制度化された国の話ではないのだろうか。
WFC声明を金科玉条に実施したのは、実はJACだろう。何しろ特別な権限が与えられている。それにしても、なぜ科学新聞社だけがターゲットにされたのだろう。メディアの活動を押さえた方がメッセージ性も強いとでも判断したのだろうか。

で、日本にどのくらいの数のカイロプラクターと称する業者がいるのか。
正確な実数は分からないが1~2万人いるとされている。
この中で、WFCが言うところの「正規のカイロプラクター」は精々5%ほどだろう。少なくともカイロプラクター「である」と称する大多数は、WFCの言う「正規のカイロプラクター」ではないことになっている。

日本のカイロは特殊な発達をした国である。
しかも憲法22条「職業選択の自由」や、最高裁による「医業類似行為は人の健康に害を及ぼすおそれのあるものでなければ禁止処罰の対象とならない」の昭和53年判例に後押しされ、カイロプラクティックの規制など無きに等しい国である。
更には「カイロプラクティック」を施術内容に掲げる「療術師」の歴史と実績もある。
今では「財団法人・療術学会」も設立され、独自の成長を見せている。
療術も苦難の道を開いてきた。戦後アメリカの占領政策に辛酸を舐めさせられてきたのである。もし戦後も療術行為が保障されていたら、カイロプラクティックは日本で別の発展を遂げたかもしれない。
また、マニピュレーションを用いる徒手療法の領域も多々ある。
そんな中で、法制度化された国に向けたと思われる声明を、そのまま日本でも対応させることに何の意味を持つのだろう。

この多数派の人たちが、正しく関節アジャストメント(マニピュレーション)を行うことが出来るように指導する責任が、それを生み出した日本のカイロ業界には当然あるだろう。
冒頭紹介したような不幸な患者を作らないためにも必然の対策だと思う。
JACが日本のカイロ教育を確立しようと願うのであれば、多数派との差別化を図るのではなく全体の底上げを目指すべきであろう。対話を拒むのではなく、同じテーブルについて歩む道筋を求めるべきだろう。解決のアイデアを出し合い、共に進む意思が必要だろう。でなければ、いつまでも溝は埋められない。今の状況を打開することにも窮しかねないように思えてならない。
どうも、そうした動きが見えてこないところが気にかかる。
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by m_chiro | 2010-11-20 13:17 | カイロプラクティック | Trackback | Comments(6)
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Commented by 一力 at 2010-11-20 22:39 x
はじめまして。
JACはCSC(標準化プログラム)承認を再開すべきと思います。
大多数の者をリスクマネージメントができるよう底上げし、
その上でテクニックが正々堂々学べるようにすべきです。

自由な学びは大事ですが、それは必要とされている教育を受けてからの話だと思います。
しかし多くの人は手っ取り早くテクニックだけを学びたがり、
それが長い目で見てカイロの評判を落とします。
Commented by m_chiro at 2010-11-21 00:06
一力様、カイロプラクティックの場合、「自由な学び」は決して好ましとは私は思いません。でも、今の実情の中では底辺が広がるばかりです。カイロ界が同じ目的を共有しない限り、歯止めは効かないでしょう。だからと言って、登らせた梯子を外すことも出来ないでしょう。だから、業界は最低限の責任を負う必要があると思います。
ご指摘のように「それは必要とされる教育を受けてからです」は、正論だと思います。でも、「必要とされる教育」とは何を指しているのでしょう。
国際基準と言うことであれば、その必要な科目、単位、修学時間を補完するシステムを日本に作ることが重要だと思います。なぜ、海外の大学にロイヤリティを支払ってまで教育を輸入しなければならないのか、私には理解できません。
Commented by m_chiro at 2010-11-21 00:07
(一力様、続きです。)
DCの数も400人ほどになったようです。なぜ、日本人の手で、日本の実情に合った教育プログラムを国際基準に照らして構築できないのでしょうか。
それぞれが、これまで学んできた養成所での内容も、単位、科目、時間で換算することも可能なのではと思います。ナショナルカイロ大学の学長を務められたジェンシー先生は、来日の度に、日本のカイロは日本人で作るようにアドバイスされていました。
「日本のカイロ界をアメリカの植民地にしてはいけない」。
ジェンシー学長のこの言葉が、いつも思い出されます。
問題は、日本の学校教育法で承認されない学士を増やしても、道は拓けない様に思います。
Commented by 一力 at 2010-11-21 07:29 x
CSCは開業者が働きながら学べます。
卒業した専門学校と3年以上の臨床経験を単位として換算し、残りを通信・集中講義で補います。
学ぶ気があれば誰でもできます。
そしてその内容は学ぶものにとってマイナスにはなりません。

m_chiro様が考える必要な教育とはなんでしょうか?
業界に最低限の責任を果たすためにはどういった受け皿が必要とお考えでしょうか?
今日本のカイロ業界は代案・その実行もなく、ただWHO・WFCを非難しているように思います。
WHOも基準以上ならその国・地域性の事情を尊重しています。
ようはWHO基準以上で日本の実情に合ったCSCを作ればよいのだと思います。
Commented by m_chiro at 2010-11-23 21:08
一力様(どういう立場の方か分かりませんので、失礼ながら敢えてそう呼ばせて頂きます)、いろいろとご意見をいただき有難うございます。
日本のカイロのことを真剣に考えておられる方の存在は嬉しい限りです。

>m_chiro様が考える必要な教育とはなんでしょうか?
私が記事にした内容は、現状のその他大勢の人たちの教育についてですが、一力様が求めておられることは「日本のあるべきカイロ教育」についてのようです。それならば、WHO,WFCが提示する基準であるべきです。別の基準を持ち出すとダブル・スタンダードになり、ややこしい話になってしまいます。また、CSCというコースが承認されたわけですから、そのような方法を模索すべきだろうと思います。そのためにはこれまで学んできた養成所などの科目、履修時間、単位、成績証明書等で換算するシステムを作らないと、長い間の学びがどこにも反映されないということになってしまいます。
何しろ日本では、消極的なものではあれ法的な許諾が得られている職業だから事は複雑です。応変に取り組まないと、いつまでも前には進めないように思います。長くなりますので、又記事にして考えを述べたいと思います。取り敢えず、お返事とします。
Commented by 一力 at 2010-11-23 22:08 x
ご丁寧なお返事ありがとうございます。

会社経営は社長が明確な目標を持ち、社員にそれを明示して方向性と目的意識を持たせモチベーションを上げます。
日本のカイロ教育も同じで、指導的立場にある人たちは開業者に本来あるべき教育制度は何かを明示しその教育を受ける目的と意欲を持たせる必要があると思います。

CSCの内容は決して教育的に植民地支配されるような内容ではなく、工夫すれば日本の事情に合った、より良い内容の教育ができると思います。

ただベテラン先生は謙虚な気持ちを持つ必要があります。
自分より年下で臨床経験の少ない講師に教わりますので。

m_chiro様の記事楽しみにしております。
今回はありがとうございました。
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