痛みの誘因を見逃せない
高校2年生の男子が、頸から肩にかけての痛みで来院したのは新学期が始まって間もなくのことだった。そんな状態が1年も前から続いていて、卓球の部活での練習も苦痛だと言っていた。
視診すると肩の水平レベルが極端に違っている。 右肩上がりで、それを代償して頭部は右に傾いている。 脊柱の頚胸移行部に左突の弯曲があるが、本人にはなぜそうなったのかは思い当たらない。卓球の練習での影響なのか、いろいろ推測を巡らせてみる。 何かの物理的なストレスが連続的に加わって、筋骨格系に歪みをもたらしたのだろう。 可動触診をすると、第1~2肋骨が肋椎関節で固着(フィクセーション)している。 右上僧帽筋にトーンの低下した部位もある。打撲の既往があったのかと尋ねると、そんなことも記憶にない。 いろいろ考え得る誘因を推測すると、重い補助バッグを右からクロスして袈裟がけにかけて通学していることに思い至った。これでは右上僧帽筋が圧迫されて、持続的な打撲のような状態が作られる。それに右手を手枕にして右側臥位でTVを観たりもするらしい。 関節受容器への動き刺激は、当該関節付近の筋肉に反射的に作用する。 その結果、運動神経の過剰な遠心性インパルスが抑制される。これが周辺で異常に緊張した筋の緩和をもたらすのである。 可動制限のある関節が存在することは、その部位からの動き刺激が伝わらない。 すると周辺の筋・筋膜も柔軟性を失い、ちょっとした過度の動きが起こると組織の微損傷が作られやすくなる。これが痛みのショーの始まりとなる。 センタリングを行ってから肋椎関節のフィクセーションをリリースした。 結果、頸がスムーズに動き出す。後は、習慣的な姿位を注意し、重いバッグをクロスに一方向に同定しないことなどを指導した。 その彼が先日5カ月ぶりに治療にみえた。 注意されたことに気を付けていたら頸の状態も良くなってきたと言う。今回はメンテナンスをしたい、とのことだった。 5か月前にはあった頚胸移行部の左突弯曲もなくなっていた。 構造的な問題は痛みと直接関係するわけではないが、こうした問題は解消しておかないと永続的な痛みの誘因になりやすい。 ちょっとしたアドバイスが自律的な回復をもたらすことは往々にしてあり得るので、障害を作る誘因は見逃せないのである。
by m_chiro
| 2010-10-01 15:41
| 症例
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