住谷昌彦先生の「CRPSに対する神経リハビリテーションとそのメカニズム」(2010年・カイロ学会より)
c0113928_16194224.jpg「日本カイロプラクティック徒手医学会」の第12回学術大会では、実行委員として企画面のお手伝いをさせていただいた。

「痛みを考えるー最新の感覚受容器の研究に基づいてー」をテーマに、盛況の大会だった。

学会は9月4~5日の両日にわたり福岡市で行われ、猛暑にもかかわらず多くの参加者が熱心に聴講し、活発な議論もあってとても良い学会になったと思う。

実行委員を務められた九州カイロプラクティック同友会メンバーの統率された活躍も印象に残った。

これも多大なお力添えを頂いた故・熊澤孝朗先生のお陰である。
熊澤先生の御支援がなければ、とても当初の企画を全うすることが出来なかったろうと思う。

招待講演も、熊澤先生が世界的にも著名な基礎研究者・吉村恵先生(熊本保健科学大学大学院・保健科学科教授)と、次代を担う臨床研究者のホープと期待される住谷昌彦先生(東京大学医学部付属病院・麻酔科・痛みセンター助教)の両先生を推挙して下さり、とても興味深く内容の濃い講演を聞くことができた。
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私には、住谷先生の講演が特に印象深く残っている。それはCRPSなどの神経障害性疼痛に対する大脳生理・認知神経科学的手法を試みている臨床現場からの報告であった。
難治性の痛み患者の「脳と身体」の関係性を研究したものである。

要するに、身体を動かしているという知覚は身体情報が大脳に入力されて、その情報に基づいた運動指令がだされ運動が実行されるわけだが、この「知覚―運動の協力応答」を認知神経学的に調整する方法である。

ヒトの身体性は、身体周辺の環境と身体の内部感覚によって固有の位置情報や姿勢の知覚が保たれている。こうした入力としての感覚系と出力としての運動系は、相互に情報の伝達が繰り返されて保たれているのである。

この「知覚―運動ループ」は本来、生理学的に整合性を持っているわけで、そのループに異常が起こると痛みなどの異常感覚が起こるのだろう。
この痛み発症の起源に迫って、ヒトの情報系のプログラムを再統合する試みと受け取った。

CRPSの患者は明るい場所では視空間認知が正常に作用しているが、暗い場所では患側方向に視空間認知の偏位が起こっていると話しておられた。
「目の見えない人にCRPSが発症するのか?」との会場からの質問に、「今のところいない」と答えられた。これも驚きと同時に興味深く感じた次第である。

視覚情報系と身体感覚系の統合する高次の脳での神経系の統合不全が、難治性の痛みの発症に関わっているのだろう。
私も頭位と視覚情報系をチェックして統合させる手法を用いているので、住谷先生のお話は大変興味深かった。

CRPSは、かつてRSD(反射性交感神経ジストロフィー)やカウザルギーとされたもので、国際疼痛学会によってタイプⅠとタイプⅡと改められたが、両者の差異が分かりにくいことから、2005年に「CRPS」と統一された。症状に交感神経の依存性と非依存性があるものの、多くは損傷後のギプスなどで関節や筋肉の不動化がきっかけとなっている。

身体の部分的な不動化は身体情報も途絶えて、こうした難治の痛みや交感神経症状を合併する痛みを作るのだろう。

筋・筋膜や関節の不動化は難治の痛みに限らず、痛み症状の根幹にある問題とも言えるだろう。疾患や損傷によっては、必然的に安静・不動の部位をギプスなどで保たなければならない事態もあるだろうが、その状態にあっても、いかに損傷治癒後の難治な痛みを回避する対策を講じる必要があるのだろう。

いろいろと学び多い講演を拝聴した。
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by m_chiro | 2010-09-10 16:22 | カイロプラクティック | Trackback | Comments(12)
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Commented by sansetu at 2010-09-11 11:18
学会お疲れさまでした。
興味深いですね。先日のブログにもあったDysafferentation(ディスアファレンテーション-求心性神経入力不全)ともリンクしているように思います。
私が行なっている揺らしや運動鍼のキモも、痛みをカットした正常動作刺激を入力させることにより、痛み閾値を上げる、と理解しています。
それと固定がCRPSを発生させるということですが、従来言われて来た神経損傷原因説は最近は言われなくなっているのでしょうか。
もしそうならば注射によるCRPSは気にせずともよいということになるのですが、このあたりはどうなのでしょうか。
Commented by sansetu at 2010-09-11 11:19
それと別件ですが、最近がん医療を始めとする欧米のエスタブリッシュメントと医療との関係を調べているのですが、驚くべき事実が続出で、ちょっとめまい気味です。医療の支配構造情報が日本に入らないように明らかに遮断されています。
1970頃~から現在に至るまで、米国で行なわれてきた非主流派医療への国家組織的弾圧はすさまじいもので、すべて詳細な記録証拠が残されているのに、日本にはほとんど伝わっていませんね。カイロも弾圧を受けています。
カイロで病気が治ると化学産業(=ロックフェラー複合体)にお金が入りませんからね。現代医療はマッチポンプ構造です。
以前からある程度は想像していましたが、しかし私が夢想していた陰謀論などよりも、遥かに現実に行なわれていた(記録があります)ことの方が巧妙で恐ろしいものでした。
薬物を用いない医療であるカイロ手技療法や鍼灸物理療法、心理療法等は団結する必要があるでしょう。
まずは標準医療とはどのような経緯で誕生し、誰の力で成長し、戦いに勝ち、君臨しているのか。この歴史的事実を学習することなしに、今後医療は一言も語れない、と私はこのところ思っております。
Commented by bancyou1965 at 2010-09-12 08:10
守屋先生、お疲れ様でした。
CRPSの記事、興味深く読ませていただきました。
研究レベルでは、痛みにたいする概念は、相当変わってきているように思えますが、現場レベルへの浸透はまだまだ時間がかかりそうですね。

また、ご指導のほど、よろしくお願いいたします。
Commented by m_chiro at 2010-09-12 09:31
sansetu先生、ホントに良い学びをしてきました。
視覚系の情報と体性感覚情報が脳内でミスマッチをすることで難治性の痛みが起こるとする考えを臨床的に検証したものでした。これはヒトの持つ神経系情報のプログラムを再構築するということにも通ずるもので、わたしには追い求めていることに近づきつつあることを感じるものでした。これは何も難治性の痛みに限らない基本的な概念のように思います。おそらくsanestu先生の治療の狙いに関するお考えや、身体機能系の根源的な問題も、同じ方向を見据えた概念と思っております。
Dysafferentationの概念や不動化は、やはり痛み治療の重要な要素ではないでしょうか。
末梢神経の損傷は修復されるそうです。神経の傷が修復されても、痛みが存続悪化して残るケースが問題なのだろうと思います。その意味では、神経の損傷も軟部組織の損傷と同様にやがては修復されるが、その痛みをきっかけとして可塑性ができる。この事態に至ることを防ぐことも、治療サイドには優先的に求められることなのでしょう。
先生の癌治療の対する学びに触発されて、私も先生推薦の本を取り寄せました。学んでみます。又、ご指導下さい。
Commented by m_chiro at 2010-09-12 09:37
banncyou先生、トップクラスの臨床家は基礎研究をどう臨床に生かすかを常に頭に置いて努力していることを感じました。特に難治性の痛みについては、住谷先生らの手法は、これまでの治療の概念を覆すようなものなのでしょう。認知神経科学的な手法は、まだ緒に就いたばかりで課題もあるでしょうが、これから注目されるような印象を持ちました。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
Commented by ゆかっぺ at 2011-01-18 23:16 x
初めまして。
私は千葉県在住の40才女性です。
5年前に左足うらのモートン病の手術後、CRPSを発症し、そのあと、右足うらも同じ症状で手術。両足うらの強い痛みで立つことも歩くこともくつ下を履くことも靴を履くこともできず、「残念ですが、今の医学ではまだ治療法が確立されていない難治性の病気です。・・さんの場合は、これから一生車椅子生活になるでしょう。」と
宣告されました。
いまだ、特定疾患の認定もおりず、治療法もなく、
私は、ずっとリハビリで「行動認知療法」を続け、昨年から、痛みは発症時のままですが、耐えて少しづつ歩くようにしています。
だけど、毎晩 夜は 痛みのせいで、眠剤なしでは眠れません。
歩き方もかばい歩きなので、腰や足首などの二次災害も次々に出ています。
なにか、有効な治療法はまだないのでしょうか・・・?
どうか、教えてください。
お願いします。
Commented by m_chiro at 2011-01-19 15:11
ゆかっぺ様、はじめまして。
CRPSですか、お辛いですね。
行動認知療法は、どのようなことをなさっているのか分かりませんが、今注目されている方法には違いないと思います。
一度、住谷先生の診察を受けられたらいいのではないかと思います。
また、TPBや心療的アプローチ、セルフケアとしての在宅エクササイズなど、集学的に取り組むべき病態ですから、近くに良いドクターなども探せるといいですね。もし、差し支えなければメール・アドレスでも教えてください(もちろん非公開コメントで)。
コメントでの書き込みは限られていますので、具体的なことなど何かお役にたてればとも思います。
Commented at 2011-01-19 21:03 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by m_chiro at 2011-01-22 00:24
鍵コメ様、了解しました。
時間をみてご連絡します。
少しお待ちください。
Commented by しいたけ at 2013-09-01 20:54 x
はじまして。大分県在住の34歳女性です。
数ヶ月前、右足の捻挫からCRPS1型を発症しました。現在は遠絡治療、痛み止め、自己流リハビリ、不眠や不安感が強い為抗うつ剤を服用しています。
痛みがない時は短距離ならなんとか歩けますが、冷風でのアロディア、関節拘縮、痛み重みで困っています。
最近、認知神経リハビリのことを知りましたが、どこで受けられるのか全く情報がありません。
何か情報がありましたら教えて頂きたいです。よろしくお願い致しますm(_ _)m
Commented by m_chiro at 2013-09-02 08:15
しいたけ様、大分県で認知神経リハビリを行っている情報は持っていませんが、参考になる情報をいただく手がかりはあるかもしれません。もし、差し支えなければ、鍵コメでメールアドレスを教えていただけますか。
Commented by m_chiro at 2013-09-03 07:48
しいたけ様、ご連絡ありがとうございました。
メールを送信しましたが、受け取れましたでしょうか?
お役にたてたか分かりませんが、お知らせまで....。
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