痛みの実験や学問的発展には、多くの犠牲があったことを忘れたくない
c0113928_18391619.gifデカルトが「人間論」という著書の中で「痛みの経路」について言及したのは1644年のことである。そして、この痛み経路の生理学的なメカニズムが解明されたのは1980年代までとされている。つい近年に明らかになったわけだ。

この間340年ほどの時間的な経過がある。随分と長い時間だったと思う。
なぜこんなにも長い時間がかかったのだろう。

一つ明らかなことは、痛みの実験では再現性に困難が付きまとうからである。
ナチスのアウシュビッツじゃあるまいし、人に痛みを作る実験は倫理・道徳的にもできない。では動物実験で、と言っても、動物とてやたら虐待をするわけにもいかない。
そこで動物実験用の「脊髄動物」が作られる。頚髄で神経の経路を遮断した犬たちである。
これとて究極の虐待に違いないが、この実験動物の犬の足底に痛み刺激を入力すると肢が屈曲する。これを痛み反応とした。

しかしである。
頚髄で神経の伝達が遮断されている犬である。その上、犬が痛いと言うわけではない。
そんな議論は大昔から交わされていたのだ。当たり前のことを、面白おかしく話題にするのも私には腹立たしい。

さらに研究は続いて、痛みの経路は一本の神経経路ではないことが分かってきた。
末梢から脊髄後角に入り反射が起こる経路を一次ニューロン、後角から視床までの経路を二次ニューロン、視床から皮質までの三次ニューロンに分けられた。
神経の経路は段階的に構成されている。
こうして実験動物が末梢刺激で肢を引っ込めるのは逃避反射とされ、この一次ニューロンの反射を痛みの指標とした。
痛みの研究には、こうした動物たちの犠牲なくしては成り立たなかったのである。

私の愛犬たちは殺処分の対象とされる犬たちであった。保護センターが引き取り、あるいは個人的な里親探しを経て私の所に来た。千葉ワンの出身の「空」を引き取ったときは、随分と詳細な調査をされた。面接も受けた。不幸な犬の引き取り希望者に、なぜこんなにも面倒な手続きをするのだろう、と訝ったものだった。が、聞いてみると意外な言葉が返ってきた。
「里親希望者の中には、不幸な犬を引き取って実験動物用に売る人がいる」と言うのである。だから里親さんを調査して面接もするのだそうだ。不届きな輩もいるものだ。

また大きな戦争が続き、多くの負傷兵たちの不幸な存在もあった。
そうした記録を丹念に書きとどめた従軍医師たちの仕事は、貴重な資料として不幸な出来事を生かしている。

近代の痛み学における340年ほどの歴史を思うとき、痛み学の発展に伴う不幸な犠牲を悼まずにはいられない。
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by m_chiro | 2010-01-08 18:41 | 痛み考 | Trackback | Comments(0)
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