「痛み学・NOTE」27. 神経因性疼痛の機序と舞台
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

27. 神経因性疼痛の機序と舞台

ところが、この悪循環説だけでは理解できない痛みの存在が明らかになる。
それが神経因性疼痛とされる難治性の痛みである。
神経因性疼痛は悪循環説にみる痛みの発生機序と全く違っている。
つまり機序となる舞台が違っている。
神経自身が痛みのジェネレーターになるのだ。舞台は脊髄における神経細胞である。

熊澤孝朗先生の論文「痛みは歪む」に、分かりやすい図が示されていたので下に引用した。
c0113928_0482195.jpg

図は、痛覚神経終末が脊髄の神経細胞に接続される舞台での活動が示されている。

脊髄の神経細胞にはいくつかの受容体がある。
重要なのは「NMDA受容体」で、このゲートが開いてしまうと中枢での痛み感作が作動するのだが、通常ではこのゲートは閉ざされている。
つまりMgでゲートに蓋がされている。
神経終末端ではグルタミン酸とサブスタンスPが蓄えられていて、特にグルタミン酸は脊髄における痛みの伝達物質として主導的役割を演じている。
補佐役はサブスタンスPである。
グルタミン酸の役割が明らかになった背景には、毒ササコを食べた婦人にアロデニア症状が出たというエピソードからだった。
毒性物質はアクロメリン酸で、グルタミン酸を分子構造内に持っており、これが脊髄の抑制系介在ニューロンを選択的に破壊するということが分かったのである。

さて、強い痛みが持続的に伝達されるようになると、グルタミン酸は神経終末から多量に放出されてくる。
ところが、グルタミン酸を受容するNMDA受容体は、Mgによって閉ざされている。

そこで別のイオンチャンネル・non-NMDA受容体のゲートになだれ込み、脱分極が活発になる。
この脱分極の活発化はMgの蓋を外す力となる。
こうした状況が続くと、この働きに補助的に働くのが神経終末に蓄えられているサブスタンスPである。
この神経ペプチドの受容体はNK1受容体で、サブスタンスPが入り込むことで細胞内変化が起きてPKC(たんぱく質キナーゼC)が作られる。
このPKCがNMDA受容体の蓋を外す第2の力となる。

こうしてNMDA受容体のMgの蓋が開くと、グルタミン酸がNMDA受容体になだれ込み、同時にCaイオンも流れ込んで興奮し、痛覚物質であるプロスタグランジンと一酸化窒素(NO)が作られることになる。
プロスタグランジンは脂溶性で、NOは気体であるため、どちらも細胞膜を易々と通過し、痛みは中枢性の感作となって伝達されて行くのである。
神経因性疼痛という難治性の痛みは、侵害受容性の痛みとその機序が全く異なる頑固で鋭敏な痛み症状となる。
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by m_chiro | 2009-07-28 00:50 | 痛み学NOTE | Trackback(1) | Comments(2)
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Tracked from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床 at 2010-10-08 14:56
タイトル : やっと分かった(笑)
「痛み学・NOTE」26. 神経因性疼痛の機序と舞台 加茂先生の記事を読み、 リンクされている守屋先生の記事を読み、 番長先生のTBを読み、 もう一度その中でリンクされている守屋先生の記事を読み、 再度加茂先生の記事に戻り、 またまた守屋先生の記事を読み、 やっと理解できました(笑)。 この慢性痛のメカニズムももちろん重要なのですが、 個人的には、 最初理解できなかった文章が理解できるようになるのは何故なのか、 ということの方に興味が行ってしまいました。 脳の中...... more
Commented by bancyou1965 at 2010-10-07 08:44
守屋先生、こんいちは。
いつも、先生のブログでは痛み以外にも、多くのの事を学ばせていただいています。

また今回、あつかましくも、先生のこの記事をブログにお借りしました。
当初は、記事を読んでもピンと来ませんでしたが、いま読み返すと、なるほどな~と思えます。
また、今後とも宜しくお願いたします。
Commented by m_chiro at 2010-10-08 16:31
bancyou先生、お役に立てたら良かったです。でも、私の学びの中の理解ですから、誤りがあったらご指摘ください。
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