頻発する「ぎっくり腰」から
今年、社会人になった23歳の青年が、度々、「ぎっくり腰」になる。6月だけで、3回も「ぎっくり腰」になった。それも、立ち上がるとき、物を拾う動作、車の乗り降りなど、些細なことでギクッとなって動けなくなるのだそうだ。一昨日はボーリングをしている時にギクッとなった。

この青年、なかなかの筋肉マンである。殿筋や大腿の筋もプチプチで、はちきれそうだ。
身長も180cmを超えているし、上体もがっちりとした立派な格闘技系の体型である。
聞くと、ランニングなどの運動を欠かさず、トレーニングも怠らないとか。

印象的に、腰部の筋の過緊張があるのではと思い、腰部関連のマニュアル筋力テスト(MMT)を行う。顕著に左腸腰筋と右殿筋が弱く、ハイパートーンは右腸腰筋にある。痛みは、体幹の屈曲/伸展で誘発される。

典型的なデストーション・パターンを想定した。そこで、腰仙関節の関節面を合わせて圧縮し、内部からの力動を促した。低下した筋群は回復したが、まだ屈曲/伸展で少し違和感が残る。
2回目の治療で屈曲/伸展運動での痛みの誘発もなくなった。多少、筋の張り感が残るが、単純な問題のように思えた。

週末には研修があって、県庁所在地まで行くことになると言う。念のために、もう一度治療して万全の状態で出かけたい、と3度目の治療にみえた。「もうすっかり大丈夫みたいです」と言っていたが、腸腰筋はまだ不安定だった。

その研修初日に電話が入り、また治療の予約を入れてきた。研修会場まで車で2時間ちょっと運転をして、降りようとした時にまたギクッとしたらしい。「そんなひどくはないから研修が終えたらみてほしい」とのことだった。

「また悪くなってますか?」と聞かれたが、関節の可動も腰部の筋力もほぼしっかりしている。でも、他に問題があるのだろう。最初から見直しをすることにした。
立位で観察すると、この青年、随分と姿勢が悪い。両肩は前方に、顎は前に突き出している。歩かせてみると、腕の後方への振りがほとんどない。そこで、広背筋のMMTを行ってみた。両側がメロメロ状態で全くホールドできないほどの弱さである。ところが、斜角筋群は過緊張している。ハイパー・トーンの筋は反発刺激を加えると信号系が混乱して、正常な筋活動を起せない。青年の姿勢は最初から見ていたのだが、意識に留まらなかったようだ。
この状態から、青年の習慣的姿位やトレーニングとやらを推論してみた。

先ずは寝る姿勢だが、両腕を挙げて寝ているか?
広背筋をストレッチするトレーニングは?
枕が極度に高くないか?
胸筋や二頭筋、前頚部の筋群の筋トレは?

答えは推論通りだった。
ここ数ヶ月はうつ伏せで寝るようになり、それも高い枕に額を当てて、両手は頭方に置いて寝るようになったらしい。筋トレは鉄棒にぶら下がり、そこからの懸垂運動、バーベルを使った胸筋と二頭筋のトレーニングを行っている。つまりは、鍛えた通りの姿勢が出来上がっている。

そこで治療は、肩関節と頚胸部をターゲットに変えて、広背筋を安定させることを狙った。
今度は経過も順調で、ランニングなどに精を出しているようだ。
思い込みで治療をしていると、とんでもない見落としをしてしまうことがある。
習慣的な姿位や変則的な運動は、身体をつくるトレーニングに似ている。学習能が作用するからだ。入力された情報に合わせて身体が出来上がる。
姿勢分析からも色々見えてくるものがあるのだが、意識がそこに向かなければ見ていても見えてこない。

ふと、大好きなシャーロック・ホームズの物語を思い出した。観察力は大事だと、ホームズはいつも言っていた。シャーロック・ホームズの推理の原則は「細かな点こそ何よりも重要だ」とすることにある。だから、ワトソンとホームズは同じものを見ていながら、その推理は全く違ったものになる。時には情報量の大きさは重要だが、もっと大事なのは「本質的な情報を見抜くことだ」と言う。治療にも生かせる原則である。

「細かな点をよく観察すれば、事件の本質がわかるんだがね。とにかく、ほんとうに、平凡な事柄くらい異様なものはないのだ。(「花婿の行方」)」

「ほら、やっぱり! きみは観察していないんだ。だが、見ることは見ている。その違いが、まさにぼくの言いたいことなんだ。(「ボヘミア王家の醜聞」)」

あるものの断片を見て、その全体を当てる。部分のパターンから全体のパターンを復元する。こうした仮説形成のプロセスを説明するホームズの推理から、患者さんを観察する視点を学べるように思うのだが、単純なことこそ難しく疎かにしかねない。

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by m_chiro | 2009-07-13 23:35 | 症例 | Trackback | Comments(4)
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Commented at 2009-07-15 22:25
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ぽん at 2009-07-15 22:34 x
知り合いのバスケットマンも、まだ若いのにぎっくり腰です。
シャーロックホームズといえば、お兄ちゃんが真似をしていたのを思い出します。
私もホームズ大好きです。
ジェレミーブレッドが演じたドラマは、お父さんが出張の夜に、リビングに3人で布団を敷いて観ていた記憶があります。
Commented by m_chiro at 2009-07-17 19:49
鍵コメ様、私は推理ものや探偵ものが大好きなんです。
ホームズも、レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウも好きなんです。

「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」 。
このマーロウのセリフにはしびれます。

村上春樹が訳した「ロンググッバイ」を読みたいと思いながら、まだ読んでません。
思い出したから、買いに行かなくちゃ!
Commented by m_chiro at 2009-07-17 19:51
ポンさん、ホームズは映像だけでなく、読まなきゃ!
いつ読んでも、何度読んでも面白いよ!
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