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臨床の基本形とは
学会誌の編集作業でてんてこ舞いです。
やっとすべての原稿が揃い、一山越えた感じです。
先日は、招待講演のテープ起こしの原稿を学会誌用にリライトしていました。
演者は、昨年の学会で特別講演をされた富山大学保健管理センターの斉藤清二教授です。
その中で心に留まった話が出ていましたので紹介しておきます。
臨床の基本形とは何か、ということに触れておられました。

斉藤教授の専門は内科学、心身医学、臨床心理学、医学教育学ですが、医療コミュニケーションをキーワードにした「ナラエビ医学」を提唱している先生です。
ナラエビ医学とは聞きなれない言葉ですが、EBMとナラティブ・ベイスト・メディスン(NBM)を合わせた斎藤先生の造語だそうです。

そもそも「臨床」という日本語は、英語のクリニカル(clinical)やクリニック(clinic)とピタリ一致する言葉ではない、とても含蓄がある言葉なのだと斎藤先生は述べていました。臨床の「床」とは「とこ」のことで、所謂「ベッド」ですが、そこには人が横たわっている。
なぜ、横たわっているのかと言えば「苦しんでいる」からです。
つまり「患者さん」ですが、英語で患者さんは「patient」で、この語源は「patience(忍耐)」にあるのだそうです。
だから「とこ」に臥している人は「苦しみに耐えている人」で、医療の初期の段階では「死に逝く人」だったのだろう、と話されていました。
そこに臨床の基本形が見られると言うのです。ちょっと長くなりますが、そのさわりの部分を引用します。

その死に逝く人が苦痛に耐えながら床(とこ)に横たわっている。すると、そんな患者に対して少しでも役に立ちたい、あるいは苦しみをやわらげてあげたい、と望む者が出現する。おそらく最初はごく普通の人、特に専門家ではなくて、いわゆる隣人だったと思います。苦しんでいる人がいれば、その傍にその人に関わる一般の人がいたのだろうと思います。ですから、いわゆる臨床というのは苦しんでいる人、一般的には患者と言われる人と、その苦しみが癒される事を願う者、この二人の関係で成り立つわけです。この相互の間に交流がなければ、そもそも臨床は成り立たない。これが基本的な見方です。

そして、その苦しみをなんとかやわらげようと願う者が、次第に専門化して行って医療者になった。臨床とは苦しむ人が横たわるベッド(床)に臨んで、すぐ傍らにいてアテンド(attend)する。アテンドというのは、実はただ単に居るのではない。アテンション(attention)という「注意深く見守る」という非常に深淵な言葉を含みます。患者さんが何をして欲しいか。どこが苦しいのか。自分がどういう役に立てるか。注意深く見守りながら、すぐに行動できるように待機しているのです。

当然、患者さんを観察することは大事なのですが、もうひとつ大事なことは患者さんと対話をすることです。苦しみが訴えられ、そしてその苦しみが聴き取られるのです。「どこが苦しいですか?」。「私に出来る事は何かありますか?」。「どうして欲しいですか?」。「水が欲しい?」、「じゃぁ、水を汲んできましょう」。「そこをさすって欲しい?」、「そこをさすりましょう」。こうして患者さんと対話しながら、その苦しみを癒そうと努力するのが臨床家なのです。

基本的には、「私にはこういう治療法があるから、あなたにやってあげましょう」ではなく、「あなたのどこが苦しいかに合わせて、私が動きましょう」という受動的な姿勢なのです。ただし、そこには注意深さが必要です。更に、医療者が専門化したということは、技術を持たなくてはならない。もっと言えば能力も持たなくてはならない。したがって、専門能力を持つ者が、患者と対話しつつ患者のニーズに合わせて動いていく。これが臨床の基本形だろうと私は思っています。


臨床の姿勢とはこうした基本形にあるので、専門領域の自己主張にあるのではないのでしょう。
個人が持つ意味や価値を取り扱う姿勢を取り戻すことは、EBM同様に必要なのでしょう。
客観的であることを過度に重視してきた従来の研究は、それがダメと言うことではなく、そこに偏向したしたが故に、個々人が持つ「固有の意味づけ」を十分に扱えてこなかったのかもしれません。
だからこそ、EBMとNBMを統合する在り方が求められなければならないのでしょう。
医療者と患者さんとのコミュニケーションで紡ぐ「物語」の中に、医療の「質」を求める必要があるのだろう、とそんなことを思いながら編集作業をしていました。
by m_chiro | 2009-06-10 11:53 | 雑記
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