「痛み学・NOTE」25. 神経を圧迫しても、通常は痛まない、これだけの理由
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

25.神経を圧迫しても、通常は痛まない、これだけの理由

簡単に「神経」と一括りに使っているが、神経とはどこまでを指すのだろう。
同じように、我々はどこまでを脊髄と認識しているのだろう。軟膜、クモ膜までだろうか。それとも脳脊髄液を含めているのだろうか。あるいは硬膜までか。脊柱管は脊髄の防御の役割も担っているので、脊髄に含めてもいいのだろうか。
そう考えると神経幹も同じように分けて考えることができる。
そもそも解剖学的な区切りは、人の都合で分けられているに過ぎない。

神経線維は結合組織の層に囲まれた束になっている。
そして、この組織形態そのものが機能的なユニットになっていると思われる。
そもそも結合組織だけで、末梢神経全質量の50~90%を構成しているとされているのである。
この結合組織は、神経内膜、周膜、上膜、間膜に分けられている。
これらについて、J.P.Barralの”Manual Therapy for the Peripheral Nerves”およびButlerの著作に学んでみよう。

神経内膜は、神経束内にある結合組織で、いくつかの神経線維で構成された最初の束を作り上げている。
ここにはグリア細胞が取り巻いて、それぞれの神経線維を増強している。
この神経内膜の束は、高密度の膠原線維の基質からなる膨張性の柔軟な構造体である。
そして栄養補給と保護機能を兼ね備えており、特に内液圧に重要な役割を果たしている。

神経内膜内スペースでは、僅かな陽圧を保つことで神経に一定の環境を提供しているのである。
ここで注目すべきことは、どうもリンパ管が存在しないことにありそうだ。
リンパ管があることで、もしも浮腫が起きるほどに内圧が変化すると、軸索の伝導や運動を妨げることになる。またリンパ管が損傷されると、神経腫や別のシナプス結合が起こり得る。
あるいは、神経組織が破壊される恐れがでてくる。
この事態は神経にとっての危機状態である。
リンパ管が存在しないことは、それだけ神経の保護に配慮されていることでもあるのだろう。

もうひとつの注目事項は、皮神経で神経内膜の割合が多くなることである。
身体表面の神経は、その分より以上の緩衝が要求されるからで、ここにも神経の環境に応じた保護作用が機能している。

神経周膜(perineurium)は、いくつかの束を取り囲む結合組織の鞘である。
つまり最初の束の集合がまとめられて、第二の束を形成している。
この神経周膜は線維芽細胞で密集した7~8つの層で構成されている。
哺乳類の神経幹には15層以上存在することがあるとされているが、神経線維を守る第二のバリアを形成しているのである。
要するに、神経線維自体の保護と異物を寄せ付けないように防御する隔壁となって、外圧に対する抵抗を提供している力学的バリアである。
また、力や物質を拡散させることでバリアとなっている。
そのため、周膜は張力に対する最も強い抵抗構造となっていて、神経が極度の牽引にさらされると最終的に損傷する結合組織でもある。
この事態での神経束内部の圧力は、約300~750mg以上とされている。

神経上膜(epineurium)は、すべての末梢神経幹を取り囲む鞘を形成する結合組織である。
上膜は、末梢神経の末端まで伸びる硬膜の延長で、機能的には2つの役割を担っている。
ひとつは内側の上膜の機能で、神経束どうしが分離した状態を維持することである。
そのために神経束間での滑りが促され、四肢の運動時における急角度の屈曲作動に適応することを可能にしている。
例えば、ピッチングでの肘のモーションなどは、この機能の恩恵を受けている。
もう一つは外部の上膜で、神経束を取り囲む明らかな鞘を形成している。

神経上膜の相対的容量は部位によって違っている。
例えば、手根管の領域のように関節が神経幹を横断する部位では、神経上膜は厚くなり、神経束を包む周膜以下の内部の膜から独立分化して「別の鞘」の形態を作っている。
こうして圧力などに対する防御機構は、ほとんど芸術的にさえ感じる。

この上膜内には、極小血管の新生を構成する神経脈管(vasa nervorum)がある。
上膜内を流れるリンパ毛細管網は、こうした血管網との連携で排出される。また「神経の神経(nerve nervorum)」を保有している。
これらの神経線維は、神経自体と脈管周囲神経叢から枝を伸ばし、周膜、内膜、上膜へと向かっている。
そして、上膜での終末には受容器がある。

神経間膜(mesoneurium)は、末梢神経を取り巻く最外層の組織である。
間膜と命名されているのは「腸間膜」に似ているためとされているが、どうも実際は似ているとは言えないようだ。
そのため「神経外膜」と呼ぶべきだとの見解もある。それは兎も角として、この神経間膜は末梢神経と隣接する組織を滑動する役割を担っている。
血管もこの間膜を貫いて神経に入るため、配列しながら収縮するようになっていて血流を阻害しないような構造になっている。
やはり神経間膜も力学的に重要な膜組織と言えるようだ。

こうして神経の結合組織をみていると、末梢神経は脊髄同様に二重のシステム構造体とみなすべきではないかと思える。
脊髄という情報伝達系と防御系、軸索という伝達系と結合組織という防御系の二重システム構造である。
やはり、機能的観点から別物と見た方がよさそうだ。
これだけ機能的役割が違っていることからも、こうした見方は強ち乱暴な見解ではないと思うのだが...。

ニューロンの多様な形態については、よく理解されているところであるが、その結合組織の形態や機能についてはあまり関心が向いていないようにも思える。
既存の分類に惑わされて、本来の機能的能力を見落とさないようにしたものである。

これまで見てきたように、末梢神経幹には二重三重に圧力に対するバリア機構が強固に保たれている。
末梢神経の結合組織にある神経線維の分配やタイプについては、未だ充分な研究が行われていないようだ。

「神経の神経(nerve   nervorum)」については、神経学の領域でも重要視されていないのかもしれない。
「神経の神経」は受容器を持つとされているが、上膜が損傷でもしない限り、簡単には発火しないように思える。なぜなら、神経幹は圧力に対して形を変えて対応しているからである。
c0113928_12322317.jpg

また、神経束の数が多ければ多いほど圧力に対する強い抵抗力がある。神経束の数や大きさも、神経の走行する部位によって異なる。
このことも保護機能に対応している証左であろう。
神経束が多ければ多いほど、比例して圧に対する抵抗も保護力も大きくなる。
例えば、総腓骨神経の膝窩部では神経束8本に対して、腓骨頭付近では16本と倍増されている。

神経の圧迫による痛みとやらは、やはりどう見ても疑わしい。
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by m_chiro | 2009-05-18 12:37 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
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