「ヘルニア派」VS「MPS派」の接点はないものか。
根性痛は椎間板ヘルニアを原因とみるか、筋・筋膜痛とみるか。
ヘルニア派とMPS派の論争は、なかなか終局しそうにない。
どこかに接点がありそうなものだと思うのだが...。

「グリーブの脊椎モビリゼーション」(エンタプライズ刊)は、ヨーロッパにおける徒手療法界の重鎮G.P.グリーブの著書の第5版・邦訳である。その中に、次のような内容の記述が見られる。

腰背部痛の原因について大量の臨床データによってその可能性が導かれているが、保存療法については「2つの疑わしい仮定を基礎としている」とグリーブは述べている。
その疑わしい仮定の1つは、「椎間板損傷の有無にかかわらず腰痛症の初期段階の障害である」こと。つまり、保存療法が適応としているのは、こうした誤った仮定を基に議論されている、ということだろう。
2つめは、「大多数の手術時の所見は椎間板突出および神経根に対する侵襲である、としている」こと。これらの傾向に対して、「論文に見られる例は、占拠性病変以外に椎間板突出の診断を立証する臨床的徴候および症候群がない」と結論づけている。

以下の10項目は、世界の徒手療法界に指導的影響力を持つ著者による椎間板障害に対する結論的主張である。ちょっと長くなるが、重要な見解なので全項目を紹介したい。

1. 「椎間板損傷」は坐骨神経痛の必要条件ではない。またたとえ椎間板損傷が存在したとしても痛みの原因とは限らない。

2. 坐骨神経痛が保存的処置によって回復した後も、椎間板「侵襲」が依然としてミエログラフィーによって明白に認められることもある。

3. すでに定義されたように、椎間板ヘルニアによる神経根圧迫が実際に認められることはまれである。

4. 坐骨神経症状の発現における椎間板突出ー神経根圧迫の相互作用の正確なメカニズムは明確ではない。

5. 腰椎神経根は異なった病理の影響を受けることがあり、異なる部位が「椎間板損傷」とされることが現在認識されている。

6. 腰痛の原因が椎間板ヘルニアあるいは変性椎間板疾患による脊髄圧迫によるものである場合は10%以下である。

7. 既往として線維輪の亀裂が認められる成熟した椎間板に対する圧迫試験において、こうした椎間板は安定しており、髄核の漏出は認められないことが判明した。

8. 腰部の神経根障害のために手術を行った患者50例中86%において、椎間板は関与していなかった。

9. 25の腰部運動分節の椎間板において、線維輪は1mm以内の表面に内部で分割された。その後生理的範囲内で圧迫負荷を加えている間、腰損傷部位から椎間板物質が突出することは観察されなかった。Brinckmannは線維輪の放射状亀裂は、臨床的に関連性のある椎間板ヘルニアの発現には十分ではないと述べた。

10. Kirkaldy-Willisらの最近の報告によれば、6例中1例だけが(0.01%が手術を行うにいたった)純粋に椎間板ヘルニアである。要約すると信頼できる事実は以前に考えられていたように「椎間板損傷」は非常にまれである。適応がある場合には保存的治療はかなり成功しているが、われわれが信じて行っていることを再考すべきである。


グリーブは「椎間板損傷に関して多くの無意味なことが信じられ、書かれ、そして教えられている」と述べる。
確かに、ミエログラフィによる椎間板ヘルニアを示唆する異状発現率でも、無症候性患者の24~50%に観察されているのである。これは多くの研究者が報告するところでもある。
これまで椎間板損傷とそれに起因するとされる徴候について多くの診断がなされてきた。グリーブの見解も、多くの病理解剖学的病変を基にした診断が間違いであったことを示唆する結論である。

しかし、根性痛もゼロとはしていない。極めて稀ではあっても、それが起りうる仮説を考えてみる必要がありそうだ。ここに「ヘルニア派 VS MPS派」の接点が見つけられるのかもしれない。有効な仮説を立てることは、今後の議論を高めるためにも大切なことだと思う。
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by m_chiro | 2009-05-03 02:52 | 痛み考 | Trackback | Comments(2)
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Commented by だるま at 2009-05-03 08:07 x
おはようございます。「ヘルニア派 VS MPS派」の議論、私も興味をもって拝見してました。

>しかし、根性痛もゼロとはしていない。極めて稀ではあっても、それが起りうる仮説を>考えてみる必要がありそうだ。ここに「ヘルニア派 VS MPS派」の接点が見つけら>れるのかもしれない。

接点を見つけることで、迷っている患者さんに有益な情報が届くようになると良いと感じます。
Commented by m_chiro at 2009-05-04 02:11
だるま先生、われわれが提示できる根拠には限界がありますが、少なくとも仮説を提示することはできます。
有効な仮説を積み上げていくのも、何かの打開するきっかけになればいいかな、と思ったりします。
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