幽霊はいるか、いないか/痛みはあるか、ないか
最近、ご近所の親しい友人が亡くなったという中高年の婦人がみえた。
その婦人に異変が起るようになった。亡くなった友人の声が聞こるようになり、その人の気配や物音を感じて具合が悪くなるのだ。
家族の人からは何も聞こえないし何も感じないと言われが、本人は「霊が来ている」と言うのである。いつも頭がボーとしていて、首や肩も締め付けられるように苦しい。眠れなくなり、寒気や吐気がすると訴える。友人が自分を迎えに来ているのでは、と思うと気分も優れないらしい。

幽霊はいるのか、いないのか? そう聞かれれば、確かに「いる」と答えざるを得ない。
外界にいるのではない。その人の頭(脳)の中にいる。そこへもって、「幽霊なんていないんだから、気にしない!」と諭しても意味がない。この婦人にとっては、幽霊の存在は現実なのだ。

幻聴や幻覚があるからといって、必ずしも精神の異常というわけではない。正常な人間でも幻覚や幻聴を経験することがある。それは脳の情報処理活動の一環の中に起る異常な発火の結果なのだろう。この婦人のケースでも不安情動系が作動して脳内の異常な発火が起り、ついには自律神経系が反応しているのだろう。

先ずは、脳内の発火を沈静化してみようというわけである。頭蓋療法によって信号系を安定させてから、イメージング&リセット法を用いた。リセットの正否は、筋活動が抑制されるか安定しているか、および症状の再現の有無を指標とした。
幻聴が起った状況をイメージングによって再現させると、首や上胸背部が冷たくなり締め付けられるような症状が再現される。その信号を沈静化させると筋活動が安定する。ところが、再びイメージングをさせると、また症状が再現され筋活動も抑制される。筋活動の抑制や症状の再現が見られなくなるまで反復するのだが、通常は2回ほど安定することが多い。このケースでは症状の再現が完全に消え、筋活動も安定化するまでに5回のイメージング&リセットを一気に行った。

結果、治療後から幻聴や物音もなくなり身体の不調も安定したようだ。
そんな報告を受けながら、幽霊騒動も痛み論争も似たようなものがあると思えた。

痛みにも視覚系の原理は通用しない。痛みを視覚で捉えることが出来ないからである。
だから、痛いと言われれば痛いのである。そこで治療家は、痛みの再現や消失を頼りに機能的な問題を身体所見に求めている。

ところが整形外科領域では、身体機能よりも眼に見える痛みの証拠がどうしても欲しいらしい。だから画像に痛みの根拠を求めている。それでも、画像で判明するのは「形態(器質)」の問題に過ぎない。痛みは「働き(機能)」に関わる症状なのである。
この「形態」と「機能」の問題は、「脳」と「心」の問題に置き換えることもできる。
「脳」をいくら調べても、「心」は見えてこない。たとえ脳を画像に撮っても、その人の心は見えてこない。痛みも同様で視覚化できない。痛みは機能に関わる症状だからである。

画像に撮っても問題が見つからなかったら、「どこにも問題はないですよ」で終わる。したがって、触診などまずはしない。患者さんの身体には、ほとんど眼もくれない。ただ画像に執着する。よほど証拠とやらが欲しいのだろう。それでも湿布薬と鎮痛剤を処方されるのが常のようだ。
もしも画像に椎間板ヘルニアや変性、構造異常が見つかったら大変である。先行きの不安を煽るような説明を受けることも稀ではない。そんな患者さんの声をよく聞く。

最近、形態異常はそのままでは疾患とはならない、としているようだ。例えば椎間板ヘルニアが見つかっても、それだけではただ椎間板が出っ張っているという現象に過ぎないとする。それが神経根症状あるいは馬尾症状が伴って、初めて疾患となるのだそうである。
それならば、痛みという現象に絞って、痛み問題を捉えたらよさそうなものだが、そんなに単純にはしたくないようだ。どこかで両者を一致させないと気がすまないのだろう。

画像に痛みの根拠を求める医師には、画像の陰影に「痛みという幽霊」が見えているのかもしれない。だとすれば、幻覚が見えている限り、痛みと形態異常の一致はその人にとっての現実でしかない。この現実を変えるのはなかなか大変そうである。
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by m_chiro | 2009-04-16 08:07 | 症例 | Trackback | Comments(2)
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Commented by bancyou1965 at 2009-04-17 13:39
今回も参考になる症例を有難う御座います。

>イメージング&リセット法を用いた

大いに参考になりましたが、私のようにリセットできる技術がなければ、単に苦痛を与えるだけですね。
精進します。
Commented by m_chiro at 2009-04-18 16:28 x
bancyou先生、イメージング&リセット法はイメージを上手く引き出せると、結構、いい結果がでます。
でも、症状が再現されると、中には怖がる人がいてイメージするのを嫌がられることもあります。
そんな時は別の手を使うのですが、この領域の患者さんは難しいですね。
自分の守備範囲をしっかりしないと、と自分に言い聞かせています。
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