「痛み学NOTE」22. 「Nervi Nervorum(神経の神経)」は、どんな役割を演じるのだろう?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

22. Nervi Nervorum(神経の神経)は、どんな役割を演じるのだろう?

神経因性疼痛や神経の圧迫説などの根拠に「Nervi Nervorum」が持ち出されることがある。
「Nervi Nervorum」は「神経幹神経」あるいは「神経の神経」と訳されているが、一般的な解剖書にその名を見ることはまずない。
しかし、論文や参考図書には散見することがある。

例えば、「臨床痛み学テキスト」(熊澤孝朗監訳)、徒手医学関連では「グリーブの最新徒手医学・下巻」、「バトラー・神経系モビライゼーション」などの図書にも登場する。
下の図は「系統別・治療手技の展開」から引用した。

c0113928_12515759.jpg

神経幹は神経線維が神経周膜で覆われ、更に神経外膜が包み込んでいる。
この周膜と外膜に神経線維から分枝しているのが「Nervi Nervorum;神経の神経」である。
その分枝した末端には受容器があるとされている。
また、神経幹外からは血管と血管周囲神経叢が、神経幹の周膜と外膜に入り込んでいる。

こうした「Nervi Nervorum」に関わるシステム構造が、神経幹を圧迫すると神経因性疼痛が起ることの根拠として論じられることがある。
しかし、「Nervi Nervorum」の役割は未だよく分かっていない。
それでも、この神経の末端受容器が神経幹を圧迫したり、絞扼するような間接的な機械刺激で簡単に異所性発火が起るとは考えにくい。その証拠もない。
したがって、「Nervi Nervorum」の受容器が通常の機械的刺激で作動することには疑問が残る。

「臨床痛み学テキスト」(391頁)では、「神経幹の圧迫では痛みを伴わない場合がある」としながらも、痛みが発症するためには力学的な異常の前に神経の炎症が必要だとしている。その炎症が起る可能性の1つとして、「Nervi Nervorum」の存在とその役割をあげている。

そう考えるとうなずける。神経外膜や周膜が損傷すると、神経の結合組織に入り込んでいる血管周囲神経叢の損傷が起る。
この炎症反応は、当然、「Nervi Nervorum」の侵害受容器を異常に興奮させることになるだろう。

神経生理学者・Howard L. Fields博士(カリフォルニア大学;UCSF教授)は、“Multiple Mechanisms of Neuropathic Pain”のレクチャーの中で、この「Nervi Nervorum」についても触れている。
Howard博士によれば、このような「Nervi Nervorum」における過敏な侵害受容体が神経因性疼痛の可能性となり得る1つのメカニズムだとしている。
それも損害された神経に起った炎症が前提になっている。

「Nervi Nervorum」は硬膜の延長とするならば、その受容器の反応する条件が明らかにされる必要があるだろう。
本当に神経幹が圧迫されて侵害受容性の痛みが起こるのか?
この受容器に炎症性物質がどのように関わるのか?
興味深いことではある。この「Nervi Nervorum」の役割が解明されてくることに期待したいものである。
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by m_chiro | 2009-03-09 12:54 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(4)
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Commented by sansetu at 2009-03-10 14:25
勉強になりました。
ただ仮にこの仮説が根性痛のメカニズムだったとしても、だからといってそれが(ヘルニア坐骨神経痛と言われている疾患の)下肢の不特定筋部や足指などに痛みが出る説明にはならないのですよね。
そこがいつも加茂先生が指摘するポイントなんですよね。
神経根そのもの(あるいはせいぜいその周囲)が痛いと感じるのであれば、まだ矛盾はないのですが。
いずれにせよ、私らが生きている間にスカッとした答えが出ないものですかねぇ~。
Commented by m_chiro at 2009-03-10 23:23 x
sansetu先生、我々が臨床で経験する下肢痛と神経因性疼痛が同じものとは到底思えないですよね。MPSの概念が最も腑に落ちるのですが、どうしても神経圧迫による痛みの根拠を打ち出したいのでしょう。それでも、まだ詳細は分かっていないようです。
確かに、スカッとした答えが聞きたいですね。
でも、「神経幹神経」の受容器が賦活するのは、神経の結合組織が損傷された時だと言うことであれば、現在の生理学的根拠にも符合します。何も神経線維そのものの損傷でなくてもいいわけです。神経の結合組織の血管が損傷されても炎症が起りますから、痛みが長期にわたれば、神経自体が痛みのジェネレーターに成り得ますし、神経幹神経も損傷することもあるでしょうから発芽がおこり神経因性の痛みをつくることもあるでしょうね。
日常的な動きや所作で、神経の結合組織が損傷することって、どんな状況のときなのでしょうね。圧迫されて痛いと言うのであれば、長時間の座位も立位も恐怖ですね。
Commented by bancyou1965 at 2009-03-12 08:42
>「神経幹神経」の受容器が賦活するのは、神経の結合組織が損傷された時だと言うことであれば、現在の生理学的根拠にも符合します。何も神経線維そのものの損傷でなくてもいいわけです。神経の結合組織の血管が損傷されても炎症が起りますから、痛みが長期にわたれば、神経自体が痛みのジェネレーターに成り得ますし、神経幹神経も損傷することもあるでしょうから発芽がおこり神経因性の痛みをつくることもあるでしょうね。

守屋先生、上記コメントのような病態は神経因性疼痛と解釈してよろしでしょうか?
Commented by m_chiro at 2009-03-12 16:32
bancyou先生、ご指摘のコメントは神経因性疼痛に関する機序です。
nervi nervorumについて日本の文献にはあまり見ないのですが、海外の著作には(翻訳書にも)散見します。でもその役割は、まだよく分かっていないようですが、神経幹に対する刺激(特に伸張される場合)に、この神経の受容器が反応するとする意見が見受けられます。椎間板ヘルニアによる炎症物質に反応するともしていますが、それが異所性発火との関連で述べているものは? です。今後、何が出てくるでしょうか?
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