「痛み学・NOTE」21.  根性痛は本当に神経因性疼痛なのか?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

21. 根性痛は本当に神経因性疼痛なのか?

「腰痛」で著者の菊地臣一教授は、神経因性疼痛を「末梢神経ないしは神経根が原因となる痛み」とする臨床神経学者の仮説を支持している。
なるほど、根性痛は侵害受容性疼痛ではなく、神経因性疼痛だったというわけだ。確かに、神経根も後根神経節(DRG)も受容器ではない。

では、神経因性疼痛とは何か。
それは神経系の一次的な損傷やその機能異常が原因となる、もしくはそれによって惹起される疼痛のことである。
その定義するところによれば、「主な機序が末梢神経ないしは中枢神経系の知覚異常にある疼痛」(「臨床痛み学テキスト」)とされる。
つまり、神経因性疼痛は神経に対する直接的な損傷であり、疾病であり、機械的な圧迫などにより痛覚伝導系自体が障害された病態なのである。
神経系の原初の「傷」が引き金になる神経系における知覚系の疾患というわけだ。その原因も、中枢神経系にあるものと末梢神経系にあるものがあり、慢性痛症のひとつに分類されている。

したがって、ボルタレンやロキソニンなどのNSAID(非ステロイド性消炎鎮痛剤)やオピオイドの効果も期待できない。のみならず、内因性の疼痛抑制系も無効なことが多いとされる治療困難な痛み系のひとつなのである。
もちろん、治療後に症状が消えることも稀で、症状も長期に及び治療困難な痛みとしてヘルスケア上の重大関心事とされている疾患である。

神経因性疼痛の病態生理学的機序としては、次の5つの基本的要件があげられている。
①痛み感受性のあるニューロンへの直接の刺激、
②損傷された神経の自発性発火、
③中枢神経系の感作と求心路遮断による神経系の再構築、
④内因性の疼痛抑制系の破綻、
⑤交感神経依存性疼痛、
でこれらの要因の一つから複数が関与するとされる。

さてここで、神経根の圧迫が末梢性に根性痛を起こす、という課題に話を戻そう。根症状は、本当に神経因性疼痛なのか。
上記の病態生理学的機序に関わる要件で考慮すべきものは、
①ニューロンへの直接的刺激と②の損傷された神経の2点が取り敢えずの注目点であろう。
確かに、後根神経節(DRG)は刺激に対して感受性が高い組織で、痛みとの関係に注目が集まっている。
しかし、菊地教授も自著なのかで、神経根の「機械的圧迫の存在が即、疼痛の原因を意味するわけではない」と述べているように、機械的圧迫に関連する複雑な要因が絡んでいるようである。

詳細は次の機会に譲るが、椎間板由来の髄核成分が発痛物質として根症状を引き起こすのであろう、とする仮説をその有力な原因の一つに上げている。だが、病態解明はまだである。

髄核からの液性物質が吸収されるまでに1ヶ月ほどかかるとみられており、このことは椎間板ヘルニアによる根症状とされる痛みが好転する時期と符合することも、有力な研究課題であろう。
「正常な脊髄神経根の圧迫は痛みを生じない」というのは、学者間の共通した認識には違いない。

いずれにしても根性痛が神経因性疼痛とする根拠は希薄であるが、百歩譲って神経因性疼痛だとしよう。
ならば、それはCRPS(complex regional pain syndrome;複合性局所疼痛症候群)ということになろう。
2005年以前までは神経損傷のあるなしでタイプⅠ、タイプⅡに分けられていた。そのタイプⅡはカウザルギーである。
カウザルギーは神経の切断や末梢神経の外傷後に起こる神経障害とされる疼痛症候群である。

どう考えても、臨床の現場で見聞きするヘルニアの症状とはあまりにもかけ離れている。
そして何よりも、ヘルニアとされる症状にカイロプラクティックなどの徒手療法がよく反応しているという実績がある。
また、患部に触れることなく遠隔的手法で改善させる反証的報告もそのことを裏付けている。

根症状を神経因性疼痛とするのは、あまりにも実態と違っている、と言えないだろうか。
カイロプラクティックの臨床でも比較的多く診られ、世間的にもポピュラーな疾患が神経因性の障害であるとは信じがたいことである。

それでも根疾患を神経因性疼痛だとするならば、カイロプラクティック手技がどのような機序で神経因性の疾患に影響するのかを構築し直さなくてはならない。
そして何より、カイロプラクティック手技が機能的な障害ではなく、神経病変に対応するという治療戦略を示す必要があるだろう。
[PR]
by m_chiro | 2009-03-09 12:31 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/11058880
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
<< 「痛み学NOTE」22. 「N... 古着で作ったクマさん >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索