「痛み学・NOTE」⑳ 異所性発火とは何か
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑳ 異所性発火(放電)とは何か

「バカげた根性疼痛」で、加茂先生が根性痛について分りやすく書かれている。
それを読むと、どうも異所性発火を知らないで根性痛の議論をしている専門家がいるらしい。驚きである。「神経が圧迫されて下肢痛が起こる」とする仮説の機序は、今のところ「異所性発火説」以外に合理的な機序は見当たらない。
その異所性発火とは何か? 加茂先生は次のよう述べています。
痛みの信号は神経線維の先端に付いているポリモーダル侵害受容器から発せられるのですが、この侵害受容器を介することなく神経線維の途中から痛み信号が発せられることを異所性発火といいます。

というわけで、復習をかねてまとめてみました。

神経の伝導信号は電気的な発火(活動電位)に依存している。
本態は膜電位の急速な変化によるもので、そのルートは受容器と脳を結んでいる。
上行性には感覚が伝えられ、下行性に運動がもたらされる。
その活動電位は膜のイオンチャンネルに依存した静止段階(-40~90mVの陰性膜電位:分極)からの脱分極(陽性方向への立ち上がり:活性化)と再分極(正常な陰性の静止膜電位の再獲得)の2つの段階がある。
             
侵害受容器に閾値を越えた刺激が加わると、その信号は脱分極と再分極を頻発しながら脳・中枢に向けて上行する。
これは正常な信号の発火伝導であるが、異所性発火はこの正規の生理学のルートを辿らない。受容器からの信号とは無関係に発火放電が起こる。

日本の大学で唯一「痛み学」の講座を開講する愛知医科大学「痛み学講座」が発信する用語集「言葉アラカルト」から、関連する用語を拾ってみよう。

異所性放電:感覚受容器の興奮を介せずに神経切断などで発生するスパイク放電。
発芽:損傷を受けた神経線維の切断は、修復機転として伸張する。発芽部の膜には正常時とは異なるイオンチャンネルや受容体が発現し、異所性興奮を示す。
ニューロパシー性疼痛:神経の損傷(炎症や切断など)後に生ずる痛み。慢性痛の一種で痛みの中枢経路に可塑的な変化をきたして生ずる痛み。


こうしてみると、異所性発火とは神経の切断や損傷などに伴うスパイク放電のことであることがわかる。神経の切断はともかくとして、微妙なのは「損傷」である。具体的にはどこまでの損傷を言うのだろうか。
フリー百科事典「Wikipedia」の医学項目では、損傷とは「傷がつくことである」として、「医学的における損傷は後天的に組織の生理的連絡が絶たれた状態のことを指す。創傷も含むことがある。損傷の種類には様々なものがある」、として骨折や出血を伴う傷、挫傷などをあげている。
要するに、神経の「傷」や「機能異常」に伴って起こる病的な電気生理学的現象が異所性発火である。病態としては神経因性疼痛にみられる現象である。

こうした難治性の神経の病が、日常的にみられる下肢の痛みとは信じがたい話なのである。
所謂「根性痛」とされる痛みには、神経圧迫による異所性発火説とは違った病態概念を持ち込まないと到底理解することができない。
では、根性疼痛を示す神経は正常でない神経、つまり障害された神経なのかということですが、末梢神経障害では麻痺が生じます。つまり感覚鈍痲、脱失、運動麻痺です。これはペインクリニックの領域ではありません。そんな神経に向かって局所麻酔をうつなんてことはないのです。
障害を受けた神経が、脊髄後角で触覚神経などと混線して難治性疼痛である神経因性疼痛、CRPSタイプⅡを呈することがあります。
これは手術をして治すというものではありません。根性疼痛といわれているものと明らかに別のものです。


この加茂先生の解説からも、「異所性発火」と所謂「根性痛」とされるものの違いをよく理解することが出来る。
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by m_chiro | 2009-02-02 17:49 | 痛み学NOTE | Trackback | Comments(2)
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Commented by sansetu at 2009-02-02 21:22
この記事も印刷しておきたいと思います。武器として。
私は学術が苦手な野の人間なので、加茂先生や守屋先生がいてくださるのが本当に助かります。
Commented by m_chiro at 2009-02-09 01:16
sansetu先生、復習の為にまとめているだけなのに恐縮の至りです。

庄内の雪はすっかり消えてしまいました。
暖冬でしのぎやすい年ですが、拍子抜けするところもあります。
やはり佐渡も今年はいつもと違う冬だったのでしょうね。
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