「痛み学・NOTE」⑱ 神経根の圧迫で、痛みが起きるか、起きないか!?
「痛み学・NOTE」は、日々の臨床で痛みと向き合っている医師や日本を代表する研究者の著作あるいはホームページを通して学んだり考えたりしたことを、私の「学習ノート」としてまとめ、書き綴るものです。

⑱ 神経根の圧迫で、痛みが起きるか、起きないか!? 

これまで、痛みの受容器とその伝導経路を辿ってきた。
近年の痛みに対する概念的変化には、充分な注意を払う必要があるだろう。
痛みの概念的理解がなければ、痛み治療の臨床に反映させることができないからである。

神経根症もその一つで、生理学者と臨床医の見解には微妙な違いが見受けられる。
医療の現場では、上下肢痛を伴う頚部痛や腰痛患者の多くが「根疾患」とされている。一方、感覚神経の伝達機構では、「痛みの入り口は痛覚受容器である」とする。
その痛覚受容器がある神経終末は、筋・筋膜、粘膜、靭帯、動脈など、身体中のあらゆる軟部組織に存在する。
また、そうでなければ警告系としての痛みシステムを保てない。

受容器が侵害された部位が痛みの「第一現場」であり、痛みを認知する脳での部位が痛みの「第二現場」である。第一現場での侵害情報は脱分極を繰り返して電気信号として上行し、脳の第二現場に届く。これは生理学的な原理原則論である。

そうなると、神経根症の説明に使われる機械的圧迫説には、アレッ、と思ってしまう。
例えばL4-5間で、「神経根が侵害されているために下肢痛が起きている」としよう。
害されたのがL5神経根であるならば、侵害部位の情報は脱分極による痛み信号に変えられて、脳で侵害部位での痛みとして認知される。

ここで問題となるのは、侵害部位であるL5神経根から下肢への下行する痛みの認知は、どのような生理学的機序に基づいているのか、ということである。

ここに二人の専門医の見解がある。著名な二人の説に学びながら、神経根症なるものの病態を考えてみたい。

その一人は、Karel Lewit,M.Dで、プラハのチャールズ大学で神経学を教えている。ヨーロッパからアメリカに至るまで広い地域で活躍し、手技療法の分野に大きな影響を与え続けてきた人でもある。
Dr.Lewitは、オステオパシーやカイロプラクティック界とも深い縁を持つ。
カイロプラクティック学術誌「JMPT」の編集委員としても迎えられ、その発展に寄与した。
その著「Manipulative Therapy in Rehabilitation of The Locomotor System」は8ヶ国語で出版されている(邦訳「徒手医学のリハビリレーション」)。
その中で、次のように述べている。

神経根が実際に力学的に圧迫された場合、「神経の圧迫は単独でも不全麻痺や感覚消失を引き起こしはするが、痛みは起こさないことを指摘しておくべきだろう」と前置きして説いている。
根疾患の決定的な証拠は、「知覚減退、痛覚減退、弛緩や萎縮を伴う筋脱力、特発性筋興奮性の亢進、腱反射の低下など」の神経学的な欠損がなければならない。こうした神経学的に決定的な証拠が挙がっていなければ、根性疾患と決めるわけにはいかないとする。更に続けて、このような神経学的欠損以外では、「疼痛や異常感覚が足指あるいは手指にまで放散し、脚全体が痛むような印象や骨が痛むような感じがある場合」も根疾患の視野に入る、と述べている。

前段で力学的な神経の圧迫では痛みは起きないとし、後段で根性疾患の症状を述べているが、これは恐らく損傷された神経における根性疾患の病態をのべたものと推測されるが、明確な記述が見られないことは残念である。混乱の基になりかねない。

もう一人、日本を代表する整形外科医の福島医大付属病院長・菊地臣一教授は、近著「腰痛」の中で神経根障害の発生に触れ、機械的圧迫の意義について著述している。

神経根を圧痕する頻度は、加齢と共に増加している。
ところが、神経根障害の有病率は年齢と共に減少しており、このことは神経根障害が神経根の圧迫だけでは引き起こされないことを強く示唆するものだとしている。
その上で、圧迫性神経根障害の病態を2つに分けている。
つまり、「麻痺」と「疼痛」である。
ここで問題となるのは、同じ病態に生理学的には全く反対の現象が起こるとしていることである。

では、その下肢痛はどのようにして起こるのか。菊地教授は後根神経節(DRG)の特徴に着目し、神経根性疼痛に重要な役割を果たすのだとする。そしてDRGの3つの特徴を挙げて、その根拠としている。

すなわち、DRGは①一次性知覚神経細胞を持ち、サブスタンスP、CGRPなどの神経ペプチドを産生し、疼痛伝達に重要な役割を果たしていること。
②神経根自体よりも機械的刺激に敏感であるため、わずかな刺激で異所性発火を生じること。③神経―血管関門のない組織で血管透過性が亢進しており、軽度の圧迫でも浮腫が生じやすいこと、にある。

というわけで、菊地教授は根性痛による末梢性の痛みは「異所性発火」と結論づけている。
おそらく、神経根が完全に圧迫される前にDRGが刺激されての「異所性発火」とするものだろう。
正常な神経が椎間板ヘルニアによって圧迫されることで異所性の発火が起こるとは、あまりにも大胆に過ぎる仮説だと言わざるを得ない。
「異所性発火」の痛みは神経因性の痛みであり、難治性とされる痛み疾患である。
警告系としての痛みの存在意義が機能していない疾患なのである。
そのような病態が、日常頻繁に見聞きしているものだとは到底思えない。
[PR]
by m_chiro | 2009-01-11 19:25 | 痛み学NOTE | Trackback(1) | Comments(4)
トラックバックURL : http://mchiro.exblog.jp/tb/10577024
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from 心療整形外科 at 2009-01-14 08:36
タイトル : 神経根性疼痛とは??
「痛み学・NOTE」⑱ 神経根の圧迫で、痛みが起きるか、起きないか!? つづく... more
Commented by bancyou1965 at 2009-01-13 11:47
もし、下肢痛を訴える患者さんが、本当に異所性発火ならば湿布やNSAIDの処方は、病態とのつじつまがあいませんね。

何より我々の徒手治療や医師の行う保存療法に反応する事自体が疑問ですね。
Commented by m_chiro at 2009-01-14 00:30
bancyou先生、こんばんは。いい正月休みを過ごしたようですね。

異所性発火に湿布やNSAIDの処方。矛盾に気づいているのか、いないのか、世の中意味不明の出来事が多すぎますね。

我々は、今年も楽しみましょう!
Commented at 2009-01-14 13:28 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by m_chiro at 2009-01-14 20:43
鍵コメ様、「ガーデンホース・セオリー」について今日(1月14日)の記事にしてみました。参考になればいいのですが...。
<< 「新しい治療モデル」へ。 痛み学「NOTE」⑰ 防御反応... >>



守屋カイロプラクティック・オフィスのブログです
外部リンク
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
ほとんどがMPSなんだけ..
from 心療整形外科
月経が再開した
from 心療整形外科
TPは痛みの現場ですらな..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
脊椎麻酔後頭痛について
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
起立性頭痛
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
「5%の中に本当の椎間板..
from 心療整形外科
髄液循環系と揺らしメモ
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
医師はユニコーン(架空の..
from 心療整形外科
末梢神経の周膜と上膜にも..
from 反証的、鍼灸・手技・心理臨床
また勉強になりました。
from 漢のブログ
ライフログ
検索