考える機会を持つ場としての学会活動
10月に開催された「第10回・日本カイロプラクティック徒手医学会」に参加された数人の方々からメールや電話で感想や意見が寄せられた。
その中に、うれしい感想文があった。

徒手医学会のような学術的な集いは、私たちが普段参加しているテクニック・セミナーと比べると、明日すぐに使えるものが得られるということが少ないのかもしれません。ですが、あるひとつのテーマに沿って、徒手医学やそれ以外の分野の方々の様々な角度からの講義を聴講する機会はなかなか得られるものではありません。それぞれの講義や研究発表や刺激がヒントとなり、これからの自分の臨床を構築していく上でも、大変有意義な場であると感じました。私も徒手医学会で学んだことを自分なりに反芻して、よりよい治療につなげていこうと思いました。


こうしたスタンスで徒手医学会に参加してもらえるとうれしい。
明日からすぐに使えるテクニック・セミナーとは異なり、あるテーマに対して検証あるいは反証する発表は、考える機会を与えられる場なのだろうと思う。

私もワークショップを担当し、ケアの本質というメーンテーマに添って「痛みのケアを考える」という口演を行った。






ステージ1:「今なぜ痛みなのか?」 
先ずは3つの理由を挙げて「痛みの生理学」を再認識すべき時であることを強調した。その3つの理由とは、第一に近年になって始まった本格的な痛み研究によって「新しい痛みの概念」が提示されたこと。第二には、筋骨格系の痛み患者が右肩上がりに急増していることから、筋骨格系の痛みに対する治療戦略の失敗が推論できること。第三には、2001年にアメリカの「痛み10年宣言」にはじまった医療政策の変化と国際的な痛み対策のムーブメントがあること。

ステージ2:「痛みの経路と生理学的機序について」
「痛みの定義」から「痛みの分類」を通して、それぞれの痛みの生理学的機序を解説する。痛みの3つのカテゴリーは、それぞれ発症経路の舞台が違っている。侵害受容性疼痛は、侵害刺激(第一現場)と痛みを認知する脳(第二現場)を結ぶ経路を基本としている。この基本経路を修飾する不安情動系からの交感神経反射、およびストレス反応としての副腎刺激による血管の収縮が酸欠から起こる侵害刺激がもたらされる。さらに脊髄反射による筋の攣縮が起こる。こうしたさまざまな修飾作用も、侵害受容性疼痛は最終的に基本経路に立ち返る。
侵害受容性疼痛では、ポリモーダル受容器の役割を見逃せない。
神経因性疼痛は、侵害受容性疼痛とその舞台が全く違う。脊髄における神経細胞が舞台である。主役は、シナプス終末から放出されるグルタミン酸という伝達物質、そして脊髄の神経細胞ではNMDA受容体である。NMDA受容体は海馬のような記憶と学習の原型を持つとされ、これが神経の可塑性をもたらす。作り出される痛覚物質はプロスタグランジンとNOである。いずれも細胞膜を通過して脊髄を痛みが伝播する。
心因性疼痛は、脳で起り脳内を駆け巡る痛みである。したがって、身体との情報交換が欠如してるとされる。

ステージ3:「根性痛における痛みの分類は?」
我われの臨床の中で注目したい痛みは根性痛である。果たして、根性痛は侵害受容性疼痛なのか、神経因性疼痛なのか? 
菊地臣一教授は、圧迫された神経根あるいは後根神経節内部における浮腫による「異所性発火説」を主張する。
この異所性発火説の正否を文献学的に考察する。
更に、臨床的検証を踏まえて異所性発火説に疑問を投げかける。

ステージ4:「痛み治療論」
急性痛(急性痛が遷延した痛みを含む)、慢性痛症、この2つのカテゴリーは治療の対応が異なる。除外診に始まって、積極的見立てにより「負の再現性」を見立てる急性痛に対して、慢性痛症では「正の再現性」を見立てる。
治療的見立てでは、いかに速やかに除痛するかが鍵となる。慢性痛症では「負の可塑性」を「正の可塑性」に変える試みが鍵である。さまざまな方法論を紹介しながら「痛みの治療論」を語る。

構造的診断を否定することが、痛みの治療では重要である。
なぜなら、根拠がないこと。
更には、痛みの新しいモデルとして「生物・心理・社会的モデル」が提示されていること。
ケアの本質という視点に立てば、心理的な不安を増長させる説明は痛みを悪化させるだけで、なんら改善に寄与しない、と言えるからである。
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by m_chiro | 2008-11-05 00:14 | 雑記 | Trackback(1) | Comments(2)
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Tracked from 心療整形外科 at 2008-11-10 22:24
タイトル : 異所性発火
考える機会を持つ場としての学会活動 菊地臣一教授は、圧迫された神経根あるいは後根神経節内部における浮腫による「異所性発火説」を主張する。この異所性発火説の正否を文献学的に考察する。更に、臨床的検証を踏まえて異所性発火説に疑問を投げかける。 ヘルニアや脊柱管狭窄が痛みやしびれの原因だとするには「異所性発火」という概念を用いなくてはならない。 この真中の図が異所性発火を表している。 つづく... more
Commented by bancyou1965 at 2008-11-05 13:29
先生こんにちは!以下は加茂先生のブログよりコピペ

>正常な神経根を圧迫しても疼痛は発生せず、炎症などによる障害神経根あるいは後根神経節(DRG)の圧迫により痛みを引き起こす。このような痛みの発生機序を異所性発火(ectopicfiring)と呼ぶ。異所性発火は、先に述べた椎間板由来の発痛物質により惹起される。また、交感神経が後根神経節の周囲に枝を仲ばし(sympatheticsprouting)、交感神経活動が疼痛を誘発することも持続性の異所性発火に関与している。

前半部分、胸郭出口症候群、手根管症候群には椎間板由来の発痛物質は存在しませんね。
後半部分、それはもう神経因性疼痛とでも理解できましょうか?
ヘルニアを見付けたら保存療法などで様子をみている場合ではないですね。

神経絞扼が異所性発火を引き起こすと言うならば、まだまだ証明しなければ行けない事がありますね。
Commented by m_chiro at 2008-11-05 21:50 x
bancyou先生、コピペの部分はこれまで定説のように言われてきたことですよね。

後根と末梢部のどこかで二重に絞扼が起こるダブルクラッシュとされる末梢性感作の仮説もあるようですが、その機序もよくわかりません。軸索流に問題が起こるらしい?のですが、知っていたら教えてください。

根性痛の問題は、あまりにも生理学者と臨床医との間で見解の相違が大きく、理解に苦しみます。
神経の絞扼や圧迫により痛みが起こるという根拠は、みな動物実験による結果ばかりですから、傷つけられた神経であれば当然のごとく異所性発火という答えが出てくるのではないかと思えてしまいます。

新しい情報を見聞きしたら、また教えてください。
(今回の私の要旨内容では、神経因性疼痛の末梢性感作を書き落としていました。
いつもどこか抜けてしまいます。おバカですね。)
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